☆Tao☆疑似シナリオリプレイ(bR)

☆Tao☆の一番暑い夏休み
第一話:一路、竜脈水道へ
性欲をもてあます・メリシュランヅ(a16460)



☆Tao☆の一番熱い夏休み
第一話:一路、竜脈坑道へ。(イ)


 夏が始まる前。少しの間だけ、雨の日が多く続く季節。蒸し暑い空気と、雨のむっとした匂いが森の中にも充満している。
 先ほどからその雨の中一人の脅える様な息遣いで、その場所にはいかにも不釣合いな少女が身を潜めていた。
 なぜ、その様な場所に一人、しかも雨に濡れたまま。少女の視線の先に、その理由があった。
 いくつもの醜悪なほどの声と匂い。そして、動物たちの悲鳴が木霊している。夏場で食料も豊富となり、繁殖期を迎えて大いに増えたグドンたちである。
 そのグドンの群れの奥には竜脈坑道と言われるドラゴンズゲートが存在し、以前よりグドンたちの巣窟ともされ、度々現れる冒険者たちの手によって排除されているのだが、その繁殖力や生命力はそれを遥かに超えているらしい。そして、その食欲のほども異常なほどである。一つの季節ほうっておけば、森の動物を食いつくさんばかりの所業である。
 そんなグドンの群れに何の用事があるか。その少女は震える体もそのままに、息を潜めてその様子を見ていた。
「これだけ増えて冒険者の人が来ないなんて・・・・・。このままじゃ森の動物さんたちが。」
 少女は一人、決心するとその場を注意しながら後にした。
 本当なら、本来のグドンならそんな少女の行動は見破られたのかもしれない。だが、今のグドンたちには、それを悟る事は出来ないようだ。でっぷりと脹らみきった腹部と、眠そうな息遣いがそれを証明している。
 少女は無事にグドンたちに見つからずにその場を後にできた。どうもグドンに脅えていたのと、急ぎ自分の住む場所まで戻ろうとしたためか、道を間違えてしまったようだ。
 辺りを見回しても、見慣れない雰囲気がある。ふと、そこに木造の大きな建物があるのを発見した。
「あれは・・・・・・・。」
 少女には、その建物がわかっているようだ。この辺りの町でも噂を良く聞く事がある。ちょっと変わっているが、実力があり、数多くの冒険者が己の道を見つけるために集う旅団。【☆Tao☆】
 静かなる森。その旅団の建物内からは賑やかな声が聞こえてくる。
「・・・・・・。ここの人達なら・・・・・。」
 少女は拳を握り、覚悟を決めたような表情で☆Tao☆旅団の門をくぐる。それは、少女の旅を告げる扉を開く一歩。
道を決める、第一歩となるのは、まだ後の話。その時の少女に、その運命を知る由もなかった。

「あっさごはーーーん!!あっさごはーーーん!!沸いて出て来いあっさごはーーーん!!」
 償いの間から、奇声が木霊している。ここ最近の恒例にもなっているかのように、それでも旅団内は静かである。
 奇声の発生源は勿論、性欲をもてあます・メリシュランヅ(a16460)である。今日も今日とて償いの間から出してもらうためか、償いの間に鎮座している深緑の癒し手・ユウコ(a04800)の黒い笑を浮かべる時を模った像に向って奇怪な踊りを踊っている。その行動が彼をさらにその場所にとどめる事になっているのに、メリシュランヅにはそれを止める事が出来ないようだ。そう、彼はすでに自分さえもてあましているのだから。
 そんなメリシュランヅをよそに、憩いの間では朝食が始まっていた。
「今日も雨だねー・・・・・。」
 そんな事を呟いたのはこの旅団を率いる長。女性だが数多くの戦いに身を投じ、多くの功績を残し、かつ仲間を集めている実力や名声。人徳にも優れたユウコである。ユウコはその手に料理を持ちながら、外の雨の様子を見て少々うんざりしている様だ。
「まあ、こんな日が続くのも後ちょっとだよ。」
 答えたのは夢と戯れし木漏れ日の舞踏姫リシェル(a10304)である。にこやかに答える彼女はどうやらユウコの手伝いをしているようだ。両手にもった料理をテーブルへと並べていく。旅団の人数も増えたためか、食事の用意にもかなりの手間がかかるようになり、今までにも増して元気良く手伝っている。
 何時もの朝だった。ちょっとばかり、雨が鬱陶しい日。旅団の扉を開けるものがいた。
「誰でしょうか?こんな時間に。ちょっと見てきますね。」
 言ったのは盾の誓詞・ヴェイド(a14867)である。彼も他の団員と変わらず、料理は出来ないまでも朝の朝食手伝いを自分から買って出ている。両手にもった食事をテーブルに丁寧に置いた後、扉へ向かって行く。
 ヴェイドがノブに手をかけたと同時に扉は開いた。ヴェイドの正面には雨の降りしきる外の様子が見て取れる。ふと、下を向くと少女が全身ずぶ濡れで立ち尽くしていた。
「貴女は?」
 そんな疑問が口から出たが、少女の様子を見るや方膝を床につけ、まるで皇女を迎える騎士のように少女を見上げる。
「何かあったのですね?ともかくそのままでは風をひいてしまいます。中へ行きましょう。」
 目線を下げ、少女を安心させる優しい声で語りかけ、ヴェイドは右手を差し出す。少女は無言で頷くとヴェイドの手をそのふた周りほど小さな手で握り返した。冷たい手だった。脅えているのか、寒いのか。その手は震えていた。
 憩いの間へと連れて行くとすぐにユウコとリシェルが少女を連れて奥へと消えて行った。少女の濡れてしまった服や髪や体をふき、温めてやるためであろう。流石に出る幕があるはずもなく、一人食事の準備を続けるヴェイドであった。
 そこへなにやら武器を携帯してこれから何処かへ行くかの様な格好をした蒼月鋼鉄鳳凰覚醒武人・シオン(a12390)である。ヴェイドの姿をみるや、何時もは団長であるユウコや他女性陣や料理専門の団員たちが手伝っているのに、今日は違う事に気付き、憩いの間へ入った。
「ユウコさんはどうしたのでござるか?」
 思いついた疑問をそのまま口にするシオン。ヴェイドはちょっと考えた後、
「少々、お客が先ほど来まして。その対応をしているのでしょう。シオンさんは何処かへ行くのですか?」
 そう答えた。シオンは武器を片手に不敵な笑みを浮かべながら何時ものようにドラゴンズゲートへ戦いに向うのだと、彼の捜し求める自分の記憶を求め。そこに答えが在るかのごとく。彼は今日もまた戦地へ向うつもりのようだ。
 ヴェイドはふと考えた後、食事の盛られた皿をシオンへ向ける。
「ま、まあ。出かける前に朝食でも取られては如何ですか?戦を空腹でしては全力も出せないというもの。落ち着いて朝食を取ってこそ、また落ち着いた行動も取れる事でしょう。」
 ヴェイドがなぜそこでシオンを止めたか。先ほどの少女の様子が、どうもなぜかこれから何かあるのではないかと予想させたからである。シオンはその言葉を聞いて少し疑問に思うも、ヴェイドの言う事に従う事にし、武器を憩いの間入り口へ纏めて置いて自分の席へつく事にした。
 朝食の時間だからであろうか、その後元気良く鼻歌を歌いながら天使見習い・ミュシャ(a18582)と、眠い目をこすりながらまだ覚醒してない頭をとんとんと叩きながら黒炎の狗・カナト(a00398)が、そしてその背中を押しながらこれまたミュシャと楽しげだがちょっと音程が微妙な鼻歌を歌う電撃双尾・リモネアーデ(a05950)がやって来た。
 すでにその人数分(メリシュランヅの分は除く)の食事が用意された食卓のそれぞれ席へついていく。それでも誰一人として食事には手を付けようとはしない。ミュシャなどはお腹すいたという歌が激しくなっている気がするが、全員揃ってから(メリシュランヅは除く)食事をしようと考えているようだ。
 元々この☆Tao☆にはもっと多くの冒険者が住んでいるのだが、まだやって来ていない自分探しの旅をする者・ユイシィ(a29624)と平穏なる日常の担い手・マクセル(a18151)を除き、今日はそれぞれ皆グリモアガードでの仕事や他の街などでの依頼等で出かけているのだ。
 さて、そのマクセルはと言うと、先ほどから償いの間でメリシュランヅ用に作られた食事を持ちながら扉前で中にいるメリシュランヅへと話しかけているようだ。
「メリシュさん。朝食ができましたよ?おとなしく、受け取り口を開けてくださいな。」
 すると、中から異様なほどの音が聞こえる。そう。まるで中に魔物でもいるかのような。流石に日常の事とはいえ、そんな事に慣れる人などいないだろう。そうマクセルは心の中で断言した。食事を自分の足元へ置くと、愛用の弓矢を取り出し、扉へ向ける。護身用だ。と、彼女は語る。何よりも危険なのは、グドンや魔物やアンデットや死の国の敵でもなく、目の前の部屋の中で怪しげな行動を取るメリシュランヅであることに違いはない。
 一方、そんなマクセルをよそに、食べ物の匂いを異常な嗅覚で嗅ぎ取ったメリシュランヅは歓喜していた。日ごろの行いのせいなのか、ここ最近まともな食事を頂いていない事も度々あった。彼にとって、今の自分が置かれている状況を察し、自らの行動を戒め。改心すればまともな食事にもありつけるであろうし、暗い償いの間より開放される事は百も承知である。が、それを許さないのは何よりも今はもてあまして仕方ないもの。これの処理に困っているのであろう。
 食事の匂いを嗅いだだけでも禁断症状よろしく体が震えだし、なぜか踊り出すのだ。それがまさに、メリシュランヅの今の状態である。まるで、流行病で隔離された患者のように。彼は今日も奇行に走る。
 おもむろに食事受け取り用の小さな扉が開かれ、にゅっと手が出る。その手は墟空を掴む様に右へ左へ。そしてメリシュランヅはまさに自らの求めるものをその手にした。
 マクセルは思ったであろう。その手がまさに食事を求めて彷徨っているのは理解していた。だが、まさか。まさかその手が自らの足首を掴むとは。何故か別にそうではないのだが、彼女にはその手は滑るウーズのような感触に感じ取られる。更に、その手が自分の足を引っ張るのだ。ひと時。永遠とも思われる一瞬。彼女は絶叫した。
「またか・・・・・・・。」
 そう呟いたのはカナトである。あろう事かメリシュランヅと一度はコンビを組んで活動していたが、今はその奇行が原因で共に行動することもなく、メリシュランヅの性格のなせる人災の被害者の一人でもある。そのためか。マクセルの声を聞くなり、その原因を悟れるのは。
「メリシュおぢちゃんもよく飽きないねー。」
 ミュシャはどこか別の方向を向いて興味はすでに目の前の食事の事で頭がいっぱいであり、口元からは涎さえ流れん勢いである。
 ヴェイドはそんな様子にこの頃さらに板に付いてきた苦笑いを浮かべるのであった。
 償いの間から、マクセルが乱れた髪の毛を直す事もなく、その右手には弓矢を、左手にはメリシュランヅを引き摺って現れた、
「今すぐ、メリシュさんの皮を剥いで丸焼きにしましょう。」
 凄い良い笑顔がその顔満面に広がっているが、目は笑っていない。マクセルの全身から闘気が形となって出たような、ユウコも怒る時によくする表情。旅団内では、黒笑と呼ばれる。その笑みを浮かべている。
 流石のその様子に誰も何も言う事が出来ずにいる。すると、さらにマクセルは言う。
「今すぐ、メリシュさんの皮を剥いで丸焼きにしましょう。」
 ずいとヴェイドの目の前にそれを差し出す。見れば全身に矢の傷と思われる負傷がある。どれもこれも急所を捉えており、一般人であればよもやと思われる状況である。メリシュランヅには意識すらないようだ。流石に何事があったかはわからないが、少しマクセルを落ち着かせる事とした。

 しばらくしてユウコとその後ろにひっそりと隠れるように少女。そしてそれを見守るようにリシェルとユイシィが付き添う形で食卓に現れた。
「丁度皆集まっているみたいね。食事をしながら聞いて欲しいことがあるの。」
 少女はユウコの隣へ座り、おとなしくしている。ユウコはさ、朝食にしましょうと言い、皆もそれに従った。
 食事をしながらユウコは少女、擬似NPC・フラジピルから聞いた内容を皆に話していく。
 フラジピルは元々この旅団のある森とは少し離れた場所にある町に住んでいるのだが、森へは動物たちと遊ぶため、また、子供たちの良い遊び場として定着していたのだ。例外に漏れず、フラジピルもその遊び場に何時も通っているわけだが、ここ最近グドンの数が以上に増殖しており、少なくとも被害が報告されていた。
 毎日のようにドラゴンズゲートに行くシオンもその事実には気付いている。この周辺の警備にも従事していたようだが、末端までは行き渡るのは非常に困難なものである。広い森の中でそれほど大きくもないグドンを見つけるのはそれなりに骨の折れるものである。
 グドンたちの繁殖期にも重なっており、根本を断つ事が出来ないとしても、旅団の近くにある竜脈坑道内から出ており、動物たちへ被害が出ているのでは放っておけるわけはない。
「私も動物達と暮らしてたから動物に被害を出すグドンは許せない!」
 何時もより気合の入った団長の言葉に皆も同意した。それぞれ自分の装備を取りに部屋まで戻る事となる中、
「にへへ〜♪」
 一人、なぜかカバンにお菓子を詰め込むミュシャが、フラジピルの隣へ行く。
「フラジピルお姉ちゃん、お菓子何が好き?」
 言いながら詰め込むお菓子をフラジピルに見せて行く。フラジピルは戸惑いながらも、ミュシャとお菓子を笑顔で詰め込んで行く。どうも当初の目的を失いそうでもあるが、とりあえずフラジピルの緊張はミュシャによって溶けて行った様だ。年齢も近いこともあり、意気投合したのであろう。
 フラジピルによれば敵は密集していて外と中にそれぞれ群れで存在し、外のグドンはお腹が膨れて注意散漫になっているが、中は不明であるという。ならばと、それぞれ隠密行動をしやすいように軽めの音がたちにくい装備に着替え、武器も小ぶりのものを手にしている。グドンはそれぞれ繁殖能力に優れており、一匹でも逃せばまた元の木阿弥と化してしまう。無論、これから倒しに行くグドンとて、その一部のさらに一握りにも満たないであろう。が、この繰り返しこそが、将来起こるであろう悲劇を少しでも減らす結果をもたらす事となるのだ。
 先ほどまで降っていた雨も上がり、森は風に揺れる葉の音や鳥の囀りが響くだけである。しかし、森の匂いに混じって焦げたような、やや香ばしいかおりが漂ってくる。動物の焼けた匂い。グドンたちは大いに賑わったのであろう。周囲に鳥や虫以外の動物の気配さえない。
誰よりも先に先頭を行くのはユイシィである。彼女はこの戦いが冒険者になって始めての事であり、少々緊張しているのである。先輩達の戦いを己が物にするため。匂いがきつくなる中、自分の心の中にある焦りや緊張をほぐす為なのか、さらに足は速く進んでいく。そのユイシィを追いかけるようにシオンとメリシュランヅが続く。流石に一人だけ先行させるわけには行かないのだ。ちょっとした行動の乱れが、大きな失敗へとつながる事はよくある事である。ユイシィとて、なり立てとはいえ冒険者。その程度の事は理解しているのだが、体は先へ先へと進む気持ちが行動に反映してしまうのであろう。
「ユイシィ殿、後方とかなり距離が離れてしまったでござるよ。いったんこの辺で落着くでござる。」
 シオンはユイシィに諭す様に語り掛ける。
 ユイシィはすぐに立ち止まると、後ろを振り返り、仲間の姿を確認した後シオンの言葉に頷いた。
「緊張しているのでござるか?」
「はい。でも、私この戦いで色々学びたくって。焦っていたのかもしれないです。」
 ユイシィの回答にシオンは目を閉じ、深呼吸をするでござる。とか言いながらユイシィにもそれをさせる。メリシュランヅはと言うと、香ばしい匂いの先にやや小さいがグドンらしき影を見つめている。どれも気の抜けた顔をしており、多少の物音ならばまったく気が付きそうにない。
「この期を逃す手はないな。」
 誰に言うでもなく、他の仲間が到着するまでに状態を把握しているようだ。普段こそ行いが奇怪極まりないが、戦闘行動ともなればやはり真面目に戻るのであろう。その目は真剣そのものである。
 しばらくして後方から残りの仲間が到着する。ヴェイドはグドンたちの様子を窺っているメリシュランヅの隣に並んで同じ様にグドンを注意深く観察する。
「寝ているのでしょうか。動きがありませんね。」
 二人の後ろでカナトが遠眼鏡を使ってさらに奥のほうまで確認している。どうやら正確なグドンの数を数えているようだ。
「腹いっぱいになって動けないのだろう。周囲の動物達の気配といい、どれだけの命を奪ったのやら。」
 普段見慣れない怒りにも似た表情のメリシュランヅに、ヴェイドも気合を入れなおす。例え相手が気を抜いている状態だとしても、数はそれなりに存在しているのだ。竜脈坑道内に潜んでいる数は流石にこの位置からではようとして知れない。だが、外のグドンの数は確認できた。18。それほど多くは無い様だ。だが、不意を付いて一撃で仕留めねば分散される恐れもある。
「坑道入り口らそれなりに距離がありますね。周囲を気付かれぬように包囲すれば一網打尽に出来るでしょうか。」
 ヴェイドがそう提案すると全員賛成となった。一番それがグドンどもを逃がさずに仕留める事のできる作戦だったからだ。後は、中のグドンに気付かれないようにしなければならない。全員纏まって外のグドンを一気に掃討する事となった。

 グドンたちは大いに満足していた。今日の狩りは今までにもまして多く捕れた。無論、明日やその後の食事事情など、グドンたちの考える事ではない。良く肥えた豚グドンたちが外の見張りであった。中に3匹ほどの犬グドンがいる。グドンの事など理解しがたいが、きっと伝令役であろう。しかし、伝令役である足の速そうな犬グドンも大いに食べたらしく、その場を動く気配すらない。どうやら浅い睡眠に落ちているようである。
 そんなグドンたちは気付くはずもなかった。慎重に音を立てないように周囲を包囲している冒険者を。その包囲網はすでに完成しており、彼らが目覚めたところで逃げ場などありはしない。
 竜脈坑道内のグドンも、その事実を知るものはいない。伝令役の犬グドンに全てを任せているのであろう。ややくつろいだ様子である。外のグドンよりも腹八分目の様子であり、どうも中に賢いグドンが混ざっているようで外の音に耳を向けている。だが、入り口からそのグドンたちがいる小部屋までの距離から考えると、叫び声でもしない限りそこまでは響く事はないだろう。
 グドンたちがなぜ竜脈坑道内のそんな小部屋で多く群れているのか。その理由はその部屋の中央にある輝くものに関係しているのだろうか。グドンたちはまるでそれを崇拝するような目で見つめている。グドンたちが光物に興味を示すのは珍しいともいえるかもしれない。食欲旺盛な豚グドンすら、食べ物に手もつけず、その輝く物を凝視している。
 だからだろうか。外の様子に気付かないのは。

 周囲を囲んでまず先に仕掛けたのはユイシィだった。先ほどのシオンとの深呼吸も意味を解さなかったのか、合図の前に剣を振りかざしグドンの元へ駆ける。だが、音だけは殺しているようだ。グドンはどれもその存在に気付いていない。
 一瞬その行動に遅れてシオン、リモネアーデ、ミュシャ、メリシュランヅが続く。
 流石に多少の音がしたのであろう、グドン数匹が目を覚ます。グドンたちは目の前に突然現れた冒険者達の存在に驚き、行動が遅れる。いや、ただ遅れているわけではないようだ。ユウコが気高き銀狼奥義を発動したのだ。一匹の銀の狼がグドンの喉元に食らいつき、組み伏せる。もう一匹のグドンは一番早かったユイシィが居合い斬り奥義で切り伏せる。居合いはグドンの脹れた腹に見事に命中し、グドンは上下に弾ける。
 銀狼に組み伏せられたグドンはメリシュランヅがサーベルで仕留めた。他グドンたちもそれぞれ気配に起き上がり、戦闘態勢を取るも、一足遅かった。無数の針が光と共にグドンたちへ降り注いだのだ。カナトが後方からニードルスピアを使用してグドンたちを一掃しようと言う考えであろう。
 それに合わせるかのようにリモネアーデがリングスラッシャー奥義でリングスラッシャーを発生させる。空気が切り刻まれるような音と共に、まるでそれを斬るために存在するかのようにグドンに斬りかかる。致命傷を負わないとしても、そこへ追い討ちのようにミラージュアタック奥義で止めを刺される。声を上げる暇もない様だ。
 残り少ないグドンをユウコがニードルスピアで、慌てて右往左往しているグドンをマクセルがホーミングアローで仕留めていく。
 かくして18匹ものグドンたちは一匹残さず、倒された。もはや醜い肉塊以外動くものの気配はない。
「後は中だけだよ。」
 戦いの凄まじさに少々脅えるようなフラジピルが竜脈坑道を指差した。
 震える方を抱くようにリシェルがフラジピルを抱きしめる。リシェルは万が一に備え、フラジピルと共に外で待機するようだ。
 やはり誰よりもユイシィが中へ先に入って行く。追う様に全員竜脈坑道へ入って行く。
「中では動きづらいですし、何かあるといけません。」
 言うとヴェイドが君を守ると誓う奥義をユイシィとミュシャへ施していく。今回は前方で戦う者達の補助をする事で隙を埋めると決めたようだ。騎士としては流石に女性の後ろで見守るのは、その名を傷つけてしまうかもしれないが、そうする事で被害を減らせればよいと考えているようだ。
 ヴェイドはシャッターつきのカンテラで坑道内を照らす。シャッターが明かりを最小限にとどめる。坑道に潜むグドンたちに気付かれないようにする配慮である。歴戦の戦士ともなれば、この程度の配慮はすぐに気付くものである。
 ユイシィはヴェイドの行動をしきりに頷きながら観察している。自分の至らない点を補うため、自分の力を高めるため。
 坑道内に充満する獣臭。排気のない洞窟内に息苦しいほどに充満している。しかし、奥のほうにせせらぎの様に流れる川があるためか、気温は外よりも涼しい。グドンたちの密集する小部屋のすぐ前にも川が流れている。
 その小部屋を覗くのはヴェイド、ユイシィ、シオンの三人である。中のグドンたちはある一方を向いており、ヴェイドたちのいる入り口を見張っているものはいないようだ。
「何をみているのでしょうね?」
 ヒソヒソと呟く様にマクセルがメリシュランヅに語りかける。
「中央に何かある・・・・・・。それのようだ。」
「あれだけ集中して見てるなんて、なんだろうね?」
 リモネアーデが不思議そうに中央で輝く物を興味深げに見つめる。グドンたちには魅力的なのだろう。リモネアーデにはそれを見ても何も感じないようだ。グドンたちだけを惹き付ける何かがあるとでも言うのだろうか。
「中は多いでござるな。奥のほうまでぎっしりとグドンがいるでござるよ。」
 シオンが困ったような顔で言う。シオンの言うとおり、中はグドンで敷き詰められている。足の踏み場もないくらいである。奥のほうまで見れば、その先は壁しかなく部屋の出入り口は一つだけである事がわかる。
「この出入り口を塞げば、逃げられないようだな。」
 カナトが不敵な笑みを浮かべる。その拳には炎が揺らめいている。
「正確な数はわかる?」
 ユウコがヴェイドに言った。ヴェイドは眼を凝らし、なんとかグドンを数えようと試みた。だが、どうも奥は暗くグドンがいるのがわかるだけで、数までははっきりと掴めない。数えられる限りでは50。小部屋に敷き詰めるには多すぎる数である。
 先ほどの戦いでアビリティーは消費しているが、まだ余裕は各自ある。しかし、50以上のグドンともなると少々骨が折れる作業である。
「多すぎだよ〜。まとめて倒せないかな?」
 ミュシャがそんな事を呟くが、妙案が浮かぶはずもなく、だが、考えるのはやめない。
「ともかく入り口を私が塞ぎます。それほど幅の広い入り口じゃありません。私の後ろからユウコさんとカナトさんが範囲アビリティーでグドンを倒していただけますか?」
「「わかった。」」
 ヴェイドは二人の承諾を得たと同時に自分へ鎧聖光臨奥義を発動した。自らの装備している式典用礼装がみるみるうちに強靭な鎧へと変化する。入り口中央に仁尾立ちするヴェイド。その背後左右にユウコとカナトが何時でも攻撃できるように待機する。
 入り口が固まったのを確認してユイシィがやはり戦闘をきって小部屋に斬り込んだ。突然の侵入者に気付き、グドンたちが一斉に攻撃態勢に入る。外のグドンとは違い、動きは俊敏である。たちまちユイシィはグドンに取り囲まれそうになるが、すぐにシオンとメリシュランヅがそれを阻む。
 その少し後方からマクセルがホーミングアロー奥義でグドンたちを狙い打つ。それについて行くかのように元気良くミュシャが盛大にファイアブレード奥義でグドンを切り伏せる。が、強大な力ゆえ使用者にもその刃は牙を剥く。ミュシャの体を麻痺が蝕む。
「ユウコお姉ちゃん、麻痺〜;;」
 痺れて動けなくなるミュシャ。流石にグドンたちに囲まれてしまうが、ヴェイドの施した君を守ると誓う奥義アビリティーによりダメージは半減する。だが、ヴェイドにもその衝撃が伝わる。だが、それもつかの間。ユウコが毒消しの風奥義を、ヴェイドがヒーリングウェーブ奥義を発動し、ミュシャの麻痺と攻撃によるダメージを癒す。
 ミュシャはどんどんファイアブレードを放っている。そのたびにそれが繰り返されるようである。
 カナトがそれを見ながら早く終らせるため、ニードルスピア奥義を乱発している。だが、玉数はそれほどあるわけではない。
 苦戦を強いられているのはユイシィたちも同じだった。倒しても倒してもやってくるグドンたちを単発のアビリティーで切り伏せていくにも限界がある。シオンがなんとか流水撃奥義で周囲のグドンを薙ぎ払うが、足元に転がって行くグドンの死骸によりどうも動きがとり辛い。
 リモネアーデとメリシュランヅは互いに背を合わせて戦っている。リモネアーデはリングスラッシャー奥義を、メリシュランヅはスピードラッシュ奥義でその場を凌いでいる。グドンの数はそれでも半分まで減らせたかどうかである。
 その時である。ユイシィの居合い斬り奥義が底をつき、グドンに取り囲まれてしまった。
 メリシュランヅはそれに気付くと周囲のグドンを斬り伏せながら何とかユイシィを囲むグドンを一匹だけ倒す。それと同時にユイシィを囲むグドンたちがメリシュランヅへ特攻してくる。
 他の誰もが見ながらにして、それを助けることが出来なかった。グドンの数は彼らの予想を遥かに凌駕していたのだ。
 メリシュランヅは、剣でグドンを牽制しようとするが、背後からグドンに羽交い絞めにされてしまった。
 マクセルが一瞬の判断で“メリシュランヅに向けて”ホーミングアロー奥義を放つが、グドンではなく文字通りメリシュランヅにヒットしてしまったのである。
「ぬふぅ!」
 妙な声と共にメリシュランヅはそのまま抵抗も出来ず、3匹のグドンに担がれるように運ばれていく。周囲にはまだ無数のグドンたちが蠢いている。
 ユイシィとシオンがそんなメリシュランヅを助けようとするも、自分の周りにいるグドンを制するので精一杯のようである。
 ついに3匹のグドンたちはメリシュランヅを担いだままヴェイドのいる小部屋入り口に来た。カナトが黒炎覚醒を使用し、自らの拳に炎を宿す。ヴェイドが体を使ってグドンたちの行動を防ぐ。そこへカナトの攻撃が黒い炎を纏って振り下ろされる。一匹のグドンが悲鳴を上げながらその場に崩れるも残る2匹がヴェイドの壁をも越えて川に向って走る。
 ユウコが気高き銀狼奥義を使用するが、止められたのは一匹だけだった。残る一匹はそのまま川に、メリシュランヅを抱えたまま川の中へ姿を消した。
「逃がしたか!」
 カナトが悔しそうに言うが、残るグドンはまだ多く、小部屋の中は死闘と化していた。が、所詮はグドン。数が10をきると、戦意喪失するグドンも現れて後は冒険者のなすがままであった。

 小部屋の中に無数のグドンの死骸が転がっている。もはやその数を数える気にもならないほど。そして、グドンの囲んでいた一つの光る物。ヴェイドはそれを手にした。
「不思議な光を放っている石ですね。なんでしょうか・・・・・。」
 良く見ればそれは新円で、淡い翠の光を放っている。手触りはグドンの血で滑っているが、本来はつるつるしているのだろう。まるで磨かれたような。例えるなら宝珠に近いものがある。が、その石には何の力もない様だ。
 さらに何か無いかと全員がグドンの死骸をどかしながら捜索する。ユイシィはメリシュランヅのターバンを見つけた。
「メリシュランヅさん・・・・・・・・。」
 自らの行動により、犠牲を出してしまった事にかなり堪えている様だ。ターバンを見つめたままその場を動けない。
 シオンはそんなユイシィにかける言葉もなく、その場に立ち尽くしている。
 小部屋の捜索を終えると、それぞれめぼしいものをグドンの血を落としてから懐にしまい、竜脈坑道を後にした。

 夕焼け。
 グドンたちの気配がなくなったからか、何処からともなく森の動物達が集まってくる。
 戦いで疲れた冒険者達を迎えるかのように。彼らを歓迎するように。
 しかし、作戦は失敗に終った。たった一匹。そして、メリシュランヅ。失ったものは大きい。
 作戦が上手く行ったら食べるはずだったカレーやお菓子には誰も手を付けられないでいる。
 事の詳細をフラジピルに報告し、作戦の失敗をユウコは沈んだ顔で告げた。
「あの川は何処へつながっているのかな?」
 ユウコは呟く。ユイシィは手元のターバンをじっと見つめたまままだ動かない。それを見たフラジピルが言った。
「それは、あのターバンの人のですね?もしかしたらどうにかなるかもしれません!」
「ほ、ほんとうに?」
 言葉もなかったユイシィがすがる思いでフラジピルに聞き返す。
「はい。私の住んでいる町に霊査士の方がいるんです。あの人なら、そのターバンで霊視してターバンの人の行方を知る事が出来るかもしれません!」
 フラジピルの言葉に全員が希望の光を見出した。しかし、これこそが、全ての始まりである事をその時誰も知る事はなかった。

 森の奥。冒険者達が竜脈坑道から出てくるまでをじっと見つめていた二人の影があった。
 一人は髭をはやし、咥えタバコをした熊の様な男と、まるで司祭か聖女のような格好をした女性の二人である。
「どうだ?あいつら。」
 タバコを吹かしながら男が女性に言った。女性は男を見る事無く冒険者をみつめ、微笑む。
「ちょっと失敗もあったようだけど、実力は確かね。なら、実行に移せるでしょ?」
 物言いは容姿とは違い、少々荒っぽいがその言葉使いは信頼する仲間に対してする彼女独特の喋りである。
 男はタバコをもみ消しながら微笑む女性を見て自分もにやりと笑う。
「じゃ、町に戻って報告と行こうか。あの変な男の処分もあるしな。」
「そうだね。」
 その次の瞬間には二人の影はその場にはなかった。もみ消されたタバコの煙だけが、彼らの存在を示すかのように。だが、それを見るものは誰もいない。
「面白くなってきたぜ。ようやく出番が来たってやつだ。」
 そう、これが全ての始まり。☆Tao☆の一番熱い夏の始まり。

第一話:一路、竜脈坑道へ。完。





マスター:メリシュランヅ背後
参加者:9人+NPC2人(フラジピルとメリシュランヅ)

冒険結果:失敗!!(総グドン数:「外18匹」「中75匹」・内訳:「犬:43」「豚:50」)
重傷者:なし
死亡者:なし
行方不明者:性欲をもてあます・メリシュランヅ(a16460)
全体入手アイテム:メリシュランヅのターバン・翠に光る新円の石
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