☆Tao☆疑似シナリオリプレイ(5)

☆Tao☆の一番暑い夏休み
第三話:徘徊するモノ(ハ)
性欲をもてあます・メリシュランヅ(a16460)



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☆Tao☆野一番熱い夏休み
第三話:徘徊するモノ(ハ)

【地獄で蠢く】
 大地の奥深く。緑潤う地上とは全く違う世界。その世界では生物は生命を失わず、奪われし命は不死者となって行く。そう、そこは暗黒の大地。終着の地エルヴォーグ。姦淫の都ミュントスを首都に置き、ありとあらゆる魑魅魍魎が徘徊している。地下にあるため常に暗く、光と言えばうっすらと燃える魂の灯火くらいなものであろう。
 地獄には数多くの階層が存在しており、地上に住む者達が知っているのは、そのごく一部にしか過ぎない。かつての大戦で地獄の者達は大きな損害を少なくとも負っていた。無論、死者さえいれば戦力などいくらでも補充できるのだが、生きた戦力も必要であり、流石の不死者たちも今は静かに地下で機会を窺っているのだ。
 そんなエルヴォーグには一人の支配者的な存在がいる。その名も女帝・クラリィス。ミュントスの都の中でも極めて強大な力とその指導力や強制力は他の追随を許さない。それもそのはず。彼女はもっと下の階層で以前は魔王の近衛部隊の一員として名を馳せていたのだ。そんな彼女がそんな上層の方でなぜいるのか。それは前回の大戦ザンギャバス戦でザンギャバスを討つために人間たちに協力した一員だったためである。地獄でも確かにザンギャバスの存在は邪魔なものであったのだが、だと言っても魔王にとっては損害である。すでに人間たちに幽閉されたパンドラもその一員。クラリィスはそのパンドラとは親友とも言える間柄であった。そのためか、地上に住む人間たちや下層の者たちに心穏やかではない心情を抱えているのだ。
 いつかはまた下層で魔王の下で働きたいし、パンドラも救い出したい彼女はとある情報を手に入れていた。七つの石と石版。これには大きな力があり、それを集めて行けば強大な力が手に入ると言う。以前の戦いのように表立って活動して大勢の軍隊が敵に回っては面白くない。クラリィスは自分の部下である七人のミュントス七本槍に探索を命令したのだ。そして掴んだ情報を元に、三人を地上へ送ったのだが。
「なんだって!?グリフィスが死んだだと!?」
 クラリィスの大きな声がエルヴォーグ中に木霊するように響いた。その驚きはかなりのものだったのだろう。クラリィスの目の前にはミュントス七本槍の残り四人、ミュントス四天王がクラリィスを慕うように跪いている。
 七本槍。ミュントスでも有力な冒険者をクラリィスが集め、強化した戦士たち。
 一本槍。またの名をミュントスの黒薔薇・グリフィス。二本のレイピアが武器であり、褐色の鱗を持つリザードマンの翔剣士。丁寧な口調ではあるが、残忍かつ狡猾。敵の精神を操り自分の有利に運ぶ。☆Tao☆の冒険者らの手で葬られた。
 二本槍。またの名を地獄門番・オグリ。巨大な斬馬刀を軽々と扱う。褐色の肌をしたヒトノソリンの狂戦士。全身を鋼のように鍛えた肉体が武器である。基本的に単細胞な特攻馬鹿だが、その力は強大にして脅威。現在地上の最果て山脈にあるとされる石の情報を追って行動中。
 三本槍。またの名を女帝の一番弟子・エトワール。七本槍の紅一点。クナイと呼ばれる忍者が扱う武器を二刀流で振るい、褐色の肌のエルフで暗殺任務が得意の凄腕忍者。現在地上において石の情報収集を行っている。
 四本槍。クラリィス四天王が一人、暗黒の炎・ヒサマ・コ。両手杖を持つ強大無比なヒトの紋章術士。その能力はあらゆるアビリティーを行使できる様々な杖を携帯する事。尋常ではないキャパシティーを持っているとか。
 五本槍。クラリィス四天王が一人、暗黒の風・タコ・ヘイ。まるで風の如く疾風のような素早さを持ち、何処からとも無く放たれる弓矢の脅威は、矢返しのアビリティーをも無効化するほどだと言う。褐色の肌を持つ、ストライダーの牙狩人。
 六本槍。クラリィス四天王が一人、暗黒の大地・プピ・ソレール。ドリアッドの生命とも言える頭部の毛を剃り、邪悪な紋章を刺青として入れている槍が武器で褐色の肌をした異国の男。武人の力を遥かに超えた力はミュントス一と噂される。
 七本槍。クラリィス四天王が一人、暗黒の氷・ヨシュア・ヘルディナール。地獄へと落ちた天子とも言われ、エンジェルの象徴とする羽は黒く。術に関連するウェポンマスターであるとともに、アビリティーを知り尽くし、その力を更に強大なものにさせると言われる。その力は四天王で一番強く、クラリィスと互角とも言われる重騎士。
 今では六人になってしまったが、その戦力は計り知れない。
「冒険者数名に打たれたと報告がありました。」
 そう告げたのは先ほど戻ってきたエトワールだった。その手にはグリフィスのレイピアが握られている。
「何?冒険者?まさか、そいつらが石を持っているのか?何の力もない非力な者どもが!」
 まるで大地をも振るわせんばかりの怒りがその瞳から窺える。真実とは言え、その表情に全員凍りついている。
 タコが立ち上がり、進言した。
「しかし、これではっきりと解った事がある。その愚か者たちが石を所持している事。そして、そいつらは次の石も求めていると。向う先はオグリのいる場所。冒険者の強さがいかほどだとは言え、あいつが勝つ。」
 それを聞いてクラリィスも少し落ち着くが、エトワールからもたらされた資料に目を通して心落ち着かないのもまた、グリフィスがたった五人の冒険者に敗れた事があるからである。しかも相手の冒険者はさらに数が多い。四天王の出番もそう遠くない事がクラリィスには見て取れた。
「エトワール、行ってオグリを助けてやりなさい。ですが、オグリの力を見るだけで良い。危険だと解ったらすぐに逃げて帰りなさい。貴女はまだ必要ですから。」
 クラリィスが指示すると嬉しそうな顔をしてその場から消えた。きっと地上へ向ったのだろう。エトワールにとって、クラリィスの命令は絶対なのだ。たとえそれが死を意味する命令だったとしても。
 七本槍はクラリィスの強大な力により支配されている一団であるために、それほどまとまりがあるわけでもなく、四天王と言ってもいつも四人で行動しているわけではない。それぞれ召集がない以上は好き勝手に行動していると言う具合である。だから、エトワールのようにクラリィスを崇拝している存在は彼女意外いないといっても良い。暗黒の世界では、己以外の生きる戦士の存在はただの敵とも考えられている。共に行動していても常に緊張感が漂うものだ。クラリィスも目の前にいる四人の戦士が反旗を翻したらもう打つ手はないと感じている。それゆえに、クラリィス自信も気を抜けない仕事である。探している石版にどれだけの力があるのかも未知数であるうえに、さらに拍車をかけて今回の捜索における死者がでた事は予想外であったのだ。
「くっくっく。音に聞こえし女帝がたかが冒険者に苦悩か。」
 長考が続いたために沈黙を破ったのはヨシュアであった。口を押さえて可笑しそうに。更に続けて言う。
「グリフィスの事は気に入ってたんだ。俺は勝手に行かせて貰うぞ。」
 その言葉に同時に動いたのはタコとヒサマであった。三人はヨシュアを中心に集まったと言って過言ではない。もともとヨシュアが七本槍に志願したのは地上の生命を狩ることにあり、クラリィスは彼の必要以上の残忍さを抑える事が出来ない。彼が敵に回れば、自分の存在はそこにはないのだから。
 独り残ったプピはどちらかと言えば、ただそこにいると言う感じである。クラリィスもプピの存在を掴みかねている。それだけ不気味な存在である。
 ヨシュア等が去った後も考え続けるクラリィスに、その前にいた全員がその場からいなくなっていた。
「忌々しい。全てが忌々しい!!」
 クラリィスの怒りはしばらく収まりそうにない。

【新たなる出会い】
『虹の橋』
 天空と地底の境目がまだなかった古代の時代。
まだ神々の存在が世界に君臨していた時代。
生命を司る天空の神々と、破壊を司る地底の魔族は一つの存在を争い、戦っていた。
その戦いは七日七晩続き、世界は炎と破壊で満たされた。
壮絶な戦いの末、生命を司る天空の神々が最後の力を使い、互いを封印した。
その殆どが決して壊れる事がないグリモアとなり、地上へ降り注いだ。
一つは後にランドアースと呼ばれる台地に、希望のグリモアとして。
一つは後に地獄と呼ばれる地底に、地獄のグリモアとして。
さらにいくつかのグリモアに分裂し、それは世界中に散らばった。
その力は後一つのモノをそこに作り出した。
七色の虹が天空に円を描く。
大いなる神々と、地獄の悪魔の力が同時に存在するその虹。
そして、その力は色の数七つの石となり、世界へ散らばった。
残った神の一人がその石の本来の力を封じる石版となる。
大いなる虹の石を石版に収めし生命は全てを制する。
グリモアとは違う、新たなる抑制力。
大いなる虹の石を石版に収めし生命は神の力を手にする。
抑制なき力。それは、破壊。それは創造。
大いなる虹の石を石版に収め、天空に虹を描け。
さすれば力は失われ、天空に帰るだろう。

最果て山脈から北西にしばらく行った場所にあり、モンスターたちの徘徊する森の近くに存在し、多くの冒険者がその討伐の為に集う街がある。リザードマンが多く住み着いているのはそこがかつてはリザードマンの支配地だったからだろう。街の名は、リザーフランド。そんな街の酒場で吟遊詩人が歌った。誰も知らない。誰にも伝わらない、神々の時代を歌った。現在生きる冒険者には途方もない歌。その吟遊詩人の隣には二人、付き添うように冒険者がいる。三人は流れの冒険者として、各地を転々としながらあるモノを求めて旅をしている。
求めるものは、歌にある虹の橋の力。それを求める理由は、今の戦乱を終結するため。力が欲しいから。
酒場には多くの冒険者が存在しているが、三人の歌を聞いているものなど一人としていないようだ。勿論、その日の少しばかりの施しを求めて歌っているわけで、元々利益を得れるとは考えていない。が、そうは言ってもあまりの無関心さに三人のうちの一人がいらいらしたように言った。
「ああ、もう!ウィン!もっと力入れて歌いなよぅ!誰も見向きもしないじゃないか。」
 外観は物凄い露出の多い服を身に纏っている。薄い布地は先頭向きではまるでない。もはや踊り子とも思われる出で立ちが本来は美しい彼女の顔を台無しにしているとも思われる。が、彼女はそれでもその格好が一番だと考えているし、他の二人はそれが普通だと思っている。あくまでも、三人の共通の価値観であった。
 文句を言われながらも手に持った弦楽器を楽しげに奏でる。その音はなぜかいつも悲しげで、儚い感じがある。それが二人にとってもなぜか心に染みて、三人一緒にいることは当然となったのだ。
 その関係も長いもので、腐れ縁ともいえるが、互いに他の道を見つけたわけでもなし、今回リーダーでもある文句をいった外見が派手な女性が言い出した石の伝説を求めているのも殆どは暇つぶしでもあるのだ。三人はそれなりに腕の立つ冒険者でもあり、依頼も多くこなしているのだが、自らの本当に歩む道を求めかねているのだ。
 だからだろう。色々な街で様々な話や伝説を聞きまわり、今回の荒唐無稽な伝説にすがったりするのも。ただ、世界の戦いを終結させるというのはあくまで表向きの理由であり、本来は本当に暇つぶし。彼らにとってまだ進む道を探すのはなかなか難しいらしい。
 そんな三人の前に、一人のドリアッドが近づいてきた。両の手から鎖の音が聞こえる。そのおかげで相手が霊査士である事がわかる。霊査士を見極める必要はない。その理由はその両手を束縛する鎖にある。霊査士は冒険者のような力が存在しない変わりに、対象に触れ、霊査する事によりあらゆる物事を知る事が出来ると言う。その計り知れない力を司るのが、束縛する鎖。彼らは常にそれを身に着けている。だから音でも彼らの存在を知ることが出来る。
 ドリアッドの霊査士は外見はどうも優男風で桜の花がついていてそれを増徴している。しかし、腕にいくつかの傷があるのがかなり異様でもある。霊査士は戦場では気絶していしまうため、戦うことが出来ない。が、その傷は冒険者ならわかる。戦いでついた傷であると。霊査士は三人の前の席に座り、言った。
「そのお話、もう少し聞かせて頂けますか?」
 それは桜ドリアッドの霊査士・ダストス。その人であった。アルビナークでの事件の後、新たなる石の存在を求めて情報を聞くために旅をしていた。この街までの道のりにも敵となるモンスターがいるだろうが、周囲には誰もいない。彼は勿論単身ここに来たわけではない。道中冒険者に依頼して運んでもらいながら来たのだ。その精神は霊査士としてはかなり無謀ともいえる事であろう。しかし、ダストスにとってあの石に心を冒されて苦しむ人を出したくない。その気持ちと☆Tao☆旅団の冒険者たちの導き手となるために。自らの道を突き進む彼を止める事が出来るものはいない。
 旅団からもそう遠くないその場所でその情報が聞けた事はかなり意外であった。ダストスは長い旅を予想していたのだが、偶然。いや、これも必然だろうか。彼の心は躍っていた。
 目の前に座る、霊査士とはいえどうも油断ならない感覚のするその人物に警戒しながらも、女性はその男に興味を感じてしまったらしく、やや乗り出しぎみに机にひじをついた。その様子をみて、残る二人が大きなため息をついた。彼女がそうする時は必ずと言っていいほど厄介ごとに首を突っ込む事になるのだから。でも、しっかりついて行く。それが三人の友情でもあるのだろう。
「へぇ。珍しいね。普段は依頼する側が情報を求めてくるなんて。あんた、名前は?」
 女性はやや胸元を強調するようにし、さらに流し目を使ってダストスに質問する。しかし、ダストスはそれに目を留める事はない。頭の中はすでに石の情報が手に入る事で頭が一杯なのだろう。その様子に女性はかなり気を悪くしたと同時に、自分の魅力にまいらなかった男を仲間の二人の男を除いて初めてであった。とは言え、彼女が男を挑発するような態度をとるのはかなり珍しい行為とも言える。精一杯の誘惑に揺るがないダストスに本当に興味を持った様だ。
「私は、ダストス。とある旅団の専属霊査士としてその石の情報を求めて旅をしています。お願いします。その石の情報を教えては頂けないでしょうか。」
 楽器を奏でていたウィンと呼ばれた男は意外そうな顔をして演奏を止めて相手をまじまじと見つめた。そもそもこの歌は創作の歌として吟遊詩人の間に密かに伝わる歌であり、とりわけ外で人に聞かせる歌ではなく、練習用ともされていて、今では知る人も少ないモノである。しかも、その伝説に付き合っているとは言ってもはっきり言って全くもって信じられない壮大な話が現実的な霊査士の口から出てくるとも思わなかったのだろう。
「へぇ。吟遊詩人の他にこの伝説を知る人が居るとは。どうする?」
 男はずっと黙っているもう一人の男に声をかけた。彼はと言うと黙っていたわけではなく、退屈な時間かつゆったりとした曲調にすっかり寝入っていたのである。女性がそれを知ると、男の頭をしたたかに叩いた。
「ったぁ!!な、なに?何か、事件な〜ん!?」
 びっくりしたように男が飛び起きる。彼は何時もこんな感じなのだろう。寝ぼけた顔が似合ってさえいる。
「ったく!あんたは何時も寝てるんだ。しっかりしなよ。っもう。悪いね。霊査士さん。」
 彼女はそこまで言って、自分たちを紹介する事にした。ウィンと呼ばれた男は思った。また暇な時間がこれでなくなるんだろう。それは嬉しくもあり、また、寂しくもある。それは長い旅になりそうだ。男は自己紹介をするリーダーの声に合わせるように楽器を奏でる。その音は少しだけ、楽しげであった。
「まず、私の名前は『飽くなき探求乙女・マドゥリージュ』さ。通り名の通り、色んなものを探求している乙女。ん?なんだい!その目は!ウィン!」
 勢い良く名乗ったのはやはり、顔の美しさよりも、その出で立ちが奇抜すぎて台無しな女性。露出が多い服はその体を武器にするかのように、男を惹きつけると本人は主張するが、敬遠されているのを気付いていない。手入れも十分施された腰辺りまである黒くつやのある髪が緩やかな風になびくよう。格好さえまともにすればもしかすれば引く手数多かもしれない。がその次に来るのは男勝りな性格が待っている。すなわち、それくらいが丁度良い。
 マドゥリージュは踊り子のような姿だが、ヒトの忍びである。目立つ格好がそれを疑うが、その実力のほどはいまいち不明でもある。
「・・・・・・・いや、まあ、なんでもないよ。姉御。っと、俺はウィン。『虚無を詠う・ウィン』だよ。よろしくね。」
 言ったのは楽器を奏でていた吟遊詩人。彼もただの歌い手ではなく、冒険者としてマドゥリージュに付き添ってきた者である。楽器が武器でもある彼らにすれば、その状態が普通である。良く見ればそのお尻から尻尾が揺れているのが見て取れる。狐の尻尾のようだ。それから窺えるのは彼がストライダーである事だ。ウィンの奏でる楽器がちょっとだけ旋律が激しいものになる。
「姉御って呼ぶんじゃない!マージュ様とお呼びよ!ねぇ、って、また寝るんじゃない!!」
 高い音が響く。まるで打楽器を打ち鳴らしたような音が聞こえるかのように。叩かれた男はまた飛び起きて。
「あだっ!姉御、そう、ぽんぽん叩かないで下さいな〜ん。頭が固くなっちまうですな〜ん。っと、おいらは『眠りし野獣・ディムトス』だな〜ん。」
 ノンビリとした口調とは裏腹に、その声は野太い。特徴的な語尾と、帽子とも見えたその頭から伸びる耳が彼がヒトノソリンである事がわかる。上半身は裸であり、装備もないのだがその肉体はかなりの筋肉がついている。きっと武道家を生業としているのだろう。が、どうもその口調がゆったりとしていて、実力が疑わしい。
「眠れる野獣じゃなくって、ねぼすけって言う称号にしてあげようかい?ったく。」
「とりあえず、ダストスさんだっけ?この歌は吟遊詩人の間でもすでに伝えられる者も少なくなった歌でね。その実態も存在すらも曖昧な話なんだ。まあ、姉御がそれを欲しいって言い出したのはここ最近だしね。」
 ウィンが二人をなだめるようにゆるりとした音を奏でながらダストスに言った。それに続いてマドゥリージュが言う。
「ま、まぁね・・・・・。石の情報なんて全く掴んでいないんだ。本当だよ。けどねぇ、そういったものを求めて旅をしている同胞がいるなんて嬉しい限りじゃないか。どうだい?旅団専属はやめて、私たちと石を探さない?」
 マドゥリージュはダストスの両手を自分の両手で包むようにして言う。その瞳にはどうも悪戯っぽい光が何時も灯っている。ダストスはその手を優しく払いながら、それは出来ないと告げて。
「そうですか。お邪魔しました。」
 言うと、次の街へ移ることを考え出した。
 酒場の入り口付近に一人の大柄な男がそんな一団を見ていた。自分の存在を隠すように真っ黒なフードを被っている。表情や中を窺えないように深く被っている。その男がその一団に近づいてきた。
「なんだい?今日は千客万来だねぇ。」
 黒フードの男に向ってマドゥリージュが言う。その言葉にはやや危険を察知したような感じがある。それを聞いてウィンとディムトスが席を立つように動く。ダストスだけはその男を見ながらも微動だにしない。ダストスはその男の存在に気付いていたようだ。マドゥリージュたちはその男から来るどうにも大きなプレッシャーに警戒している。
 ダストスはその存在の事もあり、早々と移動を考えていたのだが、一足遅かったようだ。しかし、敵意を感じない。異様な雰囲気が漂っているのは相変わらずだ。黒フードと言えば、ミュントスのあの男を思い出す。ダストスにとってはそれが誰であれ敵意を持ってしまう。
「何者ですか。」
 睨み付けるように男に質問した。男はフードを取り払う。下から現れた素顔に全員が、酒場の客全ても驚きを隠せない状態だ。それほどに異質な存在。それは、黄金の鬣を持ったソルレオン。
「ソルレオン!?まさか?」
 ウィンは驚いて立ち上がる。抱えていた楽器がその手から離れてしまった。床に落ちた楽器が鈍い音を奏でる。
 ソルレオンはフードを被りなおすと、ダストスの隣へ腰を下ろした。
「俺もこの話に参加させてくれ。構わないだろう?ふん。一応、名を明かしておこう。『金剛の化身・キンカラ』だ。」
 普段は賑やかな酒場に、異様なほどの緊張感が漂った。
「ソルレオンが荒唐無稽な伝説に耳を傾けるとは意外ですね。」
 ダストスはキンカラの瞳の奥を見てみる。何か、得体の知れない雰囲気。それが気に食わないのだ。裏があるのはわかるのだが、正義を守り、虚偽を嫌うソルレオンが人を騙すとも考えられず。しかし、ソルレオンにも色々いるのかもしれない。交流が深くはないとい種族であるがゆえに、例外を探るにも情報が少ないのだ。ダストスは相手の反応を見るためにもそんな質問をしたのだろう。
「ならば、今度から考えを改めるのだな。そう言ったソルレオンもいるのだと。」
 キンカラはダストスの疑問を見抜いたように言い放った。ダストスはそれでもキンカラを注意深く監視するように見つめている。一方、マドゥリージュたちはそんな二人の間に入れない。自分たちの追い求めるものが何であれ、どうやらキナ臭い話になってきた。しかし、マドゥリージュは首を突っ込む気でいる。そもそも危険には首を出したくない彼女であるのだが、今回は例外らしい。目の前にいる霊査士を気に入ったのもあるのだが、それ以上になんとなくこの事件を追及することで何かを得れるのではないか。そんな気持ちが手伝っているのだろうか。マドゥリージュはウィンとディムトスに目配せをする。二人もそれを見て納得したようだ。
「じゃあ、その珍しいキンカラさんはこの石の伝説で何か知っているのかな?」
 ウィンはキンカラにそう質問した。まずは相手の出方を見る。それが肝心である。
「知っている。そうでなければこの椅子には座らん。俺の国に伝わる言い伝えを教えてやる。一度しか言わん。良く聞いて置け。」
 キンカラは腕を組んで話し始めた。
 ソルレオンの国にも似たような言い伝えがあるようだ。ウィンの歌とも似たような箇所が多かった。伝説や言い伝えなどは各地にあるし、似たような話と言えばいくらでもでてくるようなものだ。それに吟遊詩人が元で始まったかどうかは定かではないものの、伝えているのがソルレオンの国でも詩人であるのだ。歌い旅をする吟遊詩人たちが世界中に広めているとしても、流石に驚きである。そして、キンカラは石のある場所を知っていると言い出した。
「最果て山脈の麓にあるルシール=クァル神殿深部に黄色く光る石があると言われている。」
「神殿にな〜ん?そう言えばここ数日ケイオスオーガンが大発生して奥へ行けないって誰か言ってたな〜ん。」
 キンカラの言葉にディムトスがすぐに反応する。酒場で歌を歌っていた彼らが周囲の冒険者たちの話す冒険譚に耳を傾けていた結果手に入れた情報である。
「ふふん。どうやら見に行ってみる価値があるんじゃない?キンカラさんとやらはどうするんだい?」
「俺は貴様らについていこう。霊査士は連れては行けないがな。」
 キンカラはダストスににやりと笑っている。その表情が物凄く気に障ったようで、ダストスはさらにそのソルレオンが嫌いになってくる。まだあった事のないほかのソルレオンの人柄をも一緒くたにしたくなってしまう。
「ダストスさん。石があったら伝えるよ。」
 ウィンが行動準備に移る。どうやら共同戦線をはることが出来ないようだ。
「・・・・・・・・・・。」
 名残惜しいような目でダストスを見つめるマドゥリージュを見ながら、ダストスは帰路を急ぐ手立てを考えた。
 あのソルレオンに先を越されるわけにはいかない。確か、フラジピルたちは最果て山脈方面に向ったはず。ダストスは急いで近くの冒険者数人を雇い、一路最果て山脈から☆Tao☆旅団への旅へ向うのだった。

【それぞれの闘い】
 最果て山脈にある神殿。ルシール=クァル神殿。そこでは巨大な歯車と言われる仕掛けが作動しており、最も深き場所では何かが蠢いていると言われている。その振動すらも地上へ伝わるかのように。そして、入り口の石造前に三人の冒険者の姿があった。擬似NPCの称号から紅蓮の髪を持つといわれるようになった少女。紅蓮の髪を持つ・フラジピルと、風の放浪者・アーポンそして、時を忘れし医師・アップレの三人である。
 途中で冒険者たちに担がれながら走ってきたダストスの忠告もあり、何とか先にたどり着いたようだった。以前よりも随分たくましくなったフラジピル。ここ数日はドラゴンズゲートに幾度となく挑み、依頼をこなしてその実力を上げてきた。もう十分に冒険者としての目を持っている。背中にくくりつけた巨大な剣も板に付いてきた。
「どうやら先に到着できたようだね♪」
 しかして、その言葉遣いなどはまだまだ子供の証拠。成人を迎えていない彼女にとって戦いが毎日の日々がどれほどのものであるのか。だが、輝く笑顔はそんな事を微塵も感じさせないほどに。
「ああ、しかし地響きみたいなこの振動。なんとかならんもんかねぇ。」
 アーポンは紫煙を燻らせながら言う。どうもアルビナークでの一件からフラジピルに協力してはいるものの、何かが欠けた様な顔をしている。何時も何かを想い馳せているようで、ただぼうっとしているような。まあ、それでも戦いの最中はそんなそぶりも見せないのだが。果たして何があったのやら。
「とにかく、中へ行こう。ダストス兄の言ってた奴らより先に石のありかを突き止めて守らないとね。」
 アップレは言った。ダストスが神剣に今からやってくる者たちに石を渡してはならないと言ったことを思い出す。その一団は冒険者であり、一人はソルレオン。ともすれば内部にいる大量のケイオスオーガンよりも厄介な相手であろう。
 フラジピルはそんなアーポンとアップレの腕を引いて元気良く神殿の入り口をくぐっていく。
 アーポンが内部を照らす。神殿内部には微妙に空気が濁っているのか、入り口であるのにも関わらず息苦しさを感じる。どうにも、なにかを腐らせた腐敗臭が漂っている。
「良く考えなくっても、ケイオスオーガンって死骸の寄せ集めだったよな。気味悪いぜ。」
 アーポンは武器を構えなおし、タバコを捨てて足でそれを踏みつける。
 ケイオスオーガン。大きさは3〜6メートルの巨体であり、臓器や死骸を寄せ集めた外見をしている。外見だけでなく、ケイオスオーガンは周囲の生き物を取り込み腐敗させる力を持っている。その肉体から出る触手で対象を捉えて吸収し、体内で腐敗させて己の血肉にする。そしてさらに大きな体になるためにより大きな獲物を求めて徘徊する。本来ならアンデットとして位置づけられるような存在であるが、どうもモンスターであるらしい。
 ともかく、その敵の匂いが充満しているのだろうか。それはかなり三人にとって不快なものだった。
 しばらく進むと、何かが這いずる様な、嫌な音が聞こえてくる。それも一つや二つではない。そして、臭気がさらに濃いものになる。フラジピルやアップレはたまらず口を押さえる。
「こ、こっちに来るみたいだね?」
 フラジピルは嫌そうな顔をしながらも剣を構えた。それに続いて二人も戦闘体制に入る。奥のほうから赤黒い肉の塊が近づいてくる。ずり。ずり。ずり。ずり。
「お、おおきい!」
 アップレは二歩ばかり後ずさる。近づいてくるものが天井にその醜い肉体をすりつけて寄って来るのだ。
「アップレ!遅れを取るな!しっかりフラジピルの援護を頼むぞ!!」
 アーポンは言うが早いか自らその敵へ向って走った。それをフラジピルも追う。アップレは急いでそれに従う。アーポンは松明をその場に投げ捨てるように置く。それに合わせるようにアップレがホーリーライトで周囲を照らし出す。淡い光が神殿内に優しい光を灯す。が、その奥にいるのや醜悪なモンスター。アップレはたまらず目を背ける。
 それほど広い通路ではないのでケイオスオーガンもアーポンたちに近づこうにもなかなか進めない。その大きさから前に進むのもあまり早くはない。しかし、何よりも恐ろしいのはその肉体から飛び出る触手なのだ。そして、ケイオスオーガンの肉体から触手が数本フラジピルに向って飛び出す。
 フラジピルは寸前でかわしてその触手を切り払う。触手の切り口から嫌な液体が滴り落ちる。そしてその液体と肉片はケイオスオーガンの体内へ取り込まれた。
「一気に大きいダメージをあたえねぇと駄目だな!行くぞフラジピル!」
「う〜〜〜〜〜〜っ、気持ち悪いよ〜〜〜ミュシャちゃん〜〜〜〜。」
 フラジピルは涙を流したい気持ちを持ちながらも友達の名を、姿を思い浮かべる。それが彼女の力になるようだ。フラジピルとアーポンは目の前の一匹に対して思いっきりアビリティーを叩きつける。周囲に肉片が飛び散り、後方のケイオスオーガンの餌になるが、一匹の戦力はそれほどでもないようだ。何よりもその外見と攻撃方法が精神的に、さらに匂いが体の体力を奪っていく。
 三人は苦労しながらも奥へ奥へと一歩一歩進んでいく。道中アップレがたまらず戻してしまったりフラジピルがそれを見て泣き出してしばらく戦えなくなったり、あまりに多いケイオスオーガンに対して怒りが爆発したアーポンが神殿内部の石造を破壊したりと、色々あった。ともかく三人は途中にあったパワーポイントで休憩をしているのである。
 そもそもパワーポイントとはドラゴンズゲート内にある不思議な力があふれている場所であり、その場所には敵はおらず、その内部ではたちどころに傷や体力が回復すると言う場所である。ドラゴンズゲートに挑む冒険者たちにとってはなくてはならないものであるが、その湧き出ている力にはある程度間隔があるらしく、場所も転々とする。その実態はいまだ不明だが、ありがたいことこの上ない。
「どうだ?少しは落ち着いたか?」
 アーポンが苦笑いを浮かべながら疲れきった表情の二人に質問する。二人はぐったりとしながらも笑顔で頷く。それほどに敵の存在が脅威であったのだろう。かくいうフラジピルなどはケイオスオーガン初対偶なのでその外見の醜悪さに限界を感じてさえいる。
「ぼ、僕、ああいうの嫌いだょ・・・・・。」
「そういえば、フラジピルはウーズとかも苦手だったね。」
 アップレがフラジピルを見ながら優しい笑顔で言う。フラジピルは緑色の液体のような敵を思い浮かべて嫌そうな顔をした。思い出しただけでも嫌なのだろうか。うねうねきらいだ。とか呟いている。もはやトラウマになりそうだ。
 パワーポイントのある部屋の外ではいまだにケイオスオーガンが徘徊している。目的などないように。しかし、彼らが通り過ぎた後には何も残らない。全てを吸収し、肉体へ。腐敗させて。さらに大きく。
「何処から沸いて出てくるんだろうね?元を断てれば良いのだけど。」
 アップレが今後の行動を決めるためにも言い出した。さすがにこれ以上この場所に居座るわけにも行かない。いつパワーポイントが消えてなくなるか解ったものでもない。帰りのアビリティー確保の問題もある。出るなら今出し、進むにしても今しかないようだ。アーポンは考えるまでもなく、すぐに一旦退く事とした。追っ手の冒険者がいかに出来てもあの量のケイオスオーガンはそう簡単には討伐できない。さらには漁夫の利を得るのも。いや、もしかしたら相手もそうかもしれない。ともかく三人は一旦地上へと戻っていった。

 地上ではすでにキンカラを加えたマドゥリージュ一行が神殿前に到着していた。が、内部に入ろうとはしていない。その理由は彼らの前に現れた一人の男の存在があったからだ。
 男はキンカラと同じ様に黒いフードを被り、全身を隠している。その意味があるかどうか。なぜなら、その黒マントからは人のものではない尻尾と耳が伸びていたのだ。それはディムトスと同じヒトノソリンを意味する。
「こいつ、只者じゃないな〜ん。」
 ディムトスが早速武器を構える。ただならぬ気配。それは同行しているキンカラとは一味違う。圧迫感ではなく、殺意。それも確かな感覚。ディムトスに続いて全員が武器を手に取る。
 それを見て黒フードのヒトノソリンはフードを取り払う。褐色の肌を持つヒトノソリンが姿を現す。
「ふん!貴様らがグリフィスを殺ったやつらかな〜ん?随分数が少ないようだな〜ん。ったくな〜ん。これじゃあ俺に取っちゃ物足りねぇぞな〜ん。」
 低い声でもヒトノソリン独特の語尾は消せないらしい。ウィンはその男の言葉を聴いてあらぬ誤解を敵がこちらに抱いている事を察知した。そのグリフィスとか言うのを倒した存在が自分たちであると。まったく身に覚えのないことで、厄介な敵に関わるのは彼らの性に合わない。
「ちょっと待ってよ。僕たちはそんな名前のやつは知らないぞ?変な言い掛かりはやめてくれ。」
 ウィンは闘う姿勢はそのままに、厄介ごとから逃げる事を考えている。それは自分たちで敵うかどうかわからない敵の強さの感覚。キンカラと言うソルレオンの実力は全く不明。その状態で敵と戦うのはごめん蒙る。それがウィンの出した答えである。冒険者であるならば闘う事も必要だろうが、それ以上に自分の命を守ることも大事であろう。マドゥリージュもウィンの考えを察したようで、武器をしまうような仕草をしながら相手に向って言う。
「そうだよぅ。お兄さん。私たちはただこのドラゴンズゲートに潜りに来ただけさ。」
 それだけ言うとウィンたちに目配せをして行こうと号令をかける。
「そうは行かないんだな〜ん。俺に取っちゃ相手は誰でも構わないんだな〜ん。」
 男はいつの間にかマドゥリージュの前に立っている。すぐに三人は飛びのいて距離を取る。そしてまた武器を構えなおす。もはや逃げられない事を知る。のんきに聞こえるヒトノソリンの語尾が今は恐ろしくさえ感じる。しかし、男は武器は携帯していないようだ。外見は普通のヒトノソリンに見えるのだが、武道家という場合もある。誰よりも先に攻撃に出たのはディムトスだった。
 おもむろにディムトスは動かない相手に向って指一本だけを胸の中心へ突き刺す。それは指殺奥義のアビリティーだ。その指は敵に深く突き刺さったかのように見えた。が、敵は何事もないような顔をしている。このアビリティーは完全に相手を仕留めれるわけではない。ディムトスはいちかばちかの賭けをしたのだ。が、やはり通用するはずもなく。
「何してるんだな〜ん。闘いってのは、こうやるんだな〜ん。」
 敵は素手でディムトスを突き飛ばす。勢い良く吹き飛ぶディムトス。ウィンが落ち際に入って何とか助ける。
「一応、死ぬ前に名前を教えてやるな〜ん。俺は、ミュントスの誇り高き戦士な〜ん。ミュントス七本槍が一人、地獄門番・オグリ様とは俺のことな〜ん。」
 言うとオグリと名乗った男は天へ向って手を伸ばす。すると上空の雲から一本の巨大な剣が落ちてくる。そして、その剣は神々しいまでの光を放ちながら更に大きく変化する。オグリはそれを片手で軽々持った。
「武人?あれはウェポンオーバーロードだな。」
 キンカラは冷静に相手を分析している。そういう自分はまだ抜刀さえしていない。と、彼も武器を所持していない事に他のものも今さらに気付く。
「落ち着いてる場合かい!ウィン!あれ、行くよ!ディムトスも頼むよ!?」
 マドゥリージュが号令をかけると二人はそれぞれ左右に走る。マドゥリージュが飛燕刀をオグリに向って放つ。それと同時にウィンがフールダンス♪奥義を発動する。オグリはその力に抗う事が出来ずにウィンの楽しげな踊りにつられて踊りだす。目の前の飛燕刀を避けたくとも動けない。そこへ更にディムトスがオグリへワイルドラッシュを叩き込む。
「ぬううな〜ん!」
 動けないまま三人の攻撃のなすがままになっている。ウィンは更に踊り続ける。その間にマドゥリージュの姿が消えている。マドゥリージュはハイドインシャドウで姿を消し、オグリの背後に回った。そして相手の首目掛けてシャドウスラッシュを叩き込む。
 鈍い音と共にオグリの首筋から血が吹き出る。ウィンはそれをみてダンスを終える。
「良いコンビネーションだな。」
 またしてもキンカラは冷静に評価する。闘うつもりなどなく、三人の力を試すかのように見つめているだけの様にも思える。果たして冒険者なのかどうかさえ疑いたくなる。
 ともかく、オグリは武器を構えたままその場から動かない。
「く、くっくっくっくな〜ん。」
 しかし、その口からは笑い声が聞こえる。首から血は出ているし、ダメージは相当なものだったろう。しかし、敵は笑っているのだ。
「ば、化けもんだねあいつ。」
 マドゥリージュは敵を睨みつつ少し後方に下がる。
「この程度のものかな〜ん。同盟の冒険者と言うのはな〜ん。」
 言うと、オグリの傷が塞がっていく。どうやら相手には武道家としての力も備わっているようだ。普通ではありえない。
しかし、その力は間違いなく森羅の息吹の効果。しかもそれはかなり強力なものだ。
「今度はこっちの番だな〜ん。」
 オグリは手に持った巨大な剣を空高く投げ飛ばす。それに気を取られるウィン。その瞬間、彼の体は空の中にいる。
「ウィン!!」
 デンジャラススイングのアビリティーでウィンは上空へ投げ飛ばされたのだ。マドゥリージュの声も届かないような。
マドゥリージュがウィンを見ている間にディムトスがその場で爆発する。デストロイブレードの力に違いなかった。
「ば、馬鹿な!常識を超えてるじゃないか!」
 マドゥリージュの足が震えている。すでに戦意を喪失しているようだ。その隣にウィンが落ちてくる。そしてその体はピクリとも動かない。
 そして、オグリはマドゥリージュの目の前にいる。巨大な剣を彼女の首に突きつけたままに。
「そこのソルレオンはこいつらの仲間かな〜ん?」
 もともと闘うこともしない相手には興味がないようだ。キンカラがその質問に肯定とも思える表情をする。
「なら、そこから動かない事な〜ん。動けばこの女のように死ぬな〜ん。」
 それでもキンカラは動こうとしない。表情一つ変わらない。何を考えているのか。マドゥリージュは涙を流した。本人にとってこれほどの屈辱は初めてだった。求めた物の大きさと、オグリの本当の敵を恨みすらしている。
 空はそれでも悔しいほどに、その空は広く、青く。
 太陽は、大地に、強く照りつける。

【力、今ここに集結せり】
 森の中からでもその山は見える。このランドアース何処にいても見れるのではなかろうか。そして、その山は天空にあるエンジェルたちの国へと続いている。山の内部には不思議な装置。そしてその麓の神殿には巨大な歯車。上空のドラゴンズゲートには硬い表面に覆われた銀色に光る体を持つ者達が徘徊している。それは、上空に地上では考えられない何かがある。いや、あったのではと考えさせられる。だが、その謎はいまだ明らかではない。
 そして、もう一つ、ここにも不思議なものがある。深緑の癒し手・ユウコ(a04800)が持っている石版である。そこには二つの真円の石が納められている。かつて禍々しい力を放ち、人々の心を犯していたそれは、石版の中で静かに眠っているようだ。その石版と石には不思議な伝説と共に、その不思議な力。天井の虹。それがキーワード。この石版とエンジェルにどういった繋がりがあるのか。それはエンジェルである天使見習い・ミュシャ(a18582)にもわからない。今よりも遥か昔に作られたものか。それとも。
「もう少しね。」
 ユウコは山を見つめて呟く。情報がダストスから伝えられた。その不思議な石の新たなありか。それはルシール=クァル神殿内部にあると言う。数人の冒険者に担がれながら必死で戻ってきた彼が急ぐようにと言っていた。先行したフラジピルたちを案じながらも道中を急いでいる。最果て山脈まではまだしばらく時間がかかる。黒炎の狗・カナト(a00398)はダストスから貰った地図を見ながら作戦を考えているようだ。
「ユウコさん、もう少し急いだほうが良いかも知れませんわね。」
 今回新たに旅団の門を叩き、石探索に同行を申し出たドリアッドの吟遊詩人・メイ(a32022)がそう言った。前回までの闘いはダストスから詳しい話を聞き、力及ばずとも手助けがしたいと参加したのだ。なり立ての冒険者には少々骨が折れる戦いが待っているであろう。
 ミュシャは気が気ではなかった。フラジピルが今無事であろうか。元気であろうか。怪我などしていないだろうか。お腹空いてないだろうか。色々な心配がめぐっている。相変わらず自分のカバンの中身はお菓子がつまっている。フラジピルへの差し入れのようだ。自分と同じ道を歩む事を決めたフラジピルを更に気に止めるようになった。カバンの中身はフラジピルの好物だけが並んでいる。ミュシャはそんなメイの言葉を聞いて笑顔でユウコの袖を引っ張り、先を急ぐ。
「ほらほら!ユウコおねぇちゃん急ぐよー!」
 その後を急いで皆もついてきている。しかしその中には何時も見慣れた姿が一人見当たらない。盾の誓詞・ヴェイド(a14867)だ。彼は今アルビナークに殆ど戦力がない事を考え、また以前のような事の繰り返しにならないようにする為にもアルビナークで町民たちと共に協議をしているのだ。前回の戦いでヴェイドの言葉に動かされ、彼を中心に街の人たちが行動している事を気にして、自らその手伝いをしに行ったのだ。彼らしい行動である。
 ヴェイドはいないが、新たにこの戦いへ参加したものがいる。金色に光るツインテールの少女に寄り添うようにいるドリアッドの少女。風に乗る微笑みの歌姫・フルール(a09449)だ。無論、隣にいるのは電撃双尾・リモネアーデ(a05950)だ。二人は何時も一緒なのだが、前回の闘いでリモネアーデが怪我をしてしまった事から、好きな相手が傷ついている。無茶をしないようにも、今回は急いでこの依頼へ同行したのだ。
 その真後ろにいるのは自分探しの旅をする者・ユイシィ(a29624)と蒼月鋼鉄鳳凰覚醒武人・シオン(a12390)である。ここまでの戦いでシオンに幾度となく教えを受け、自らの力にしてきたユイシィ。彼女にとってシオンは尊敬できる先輩であると共に、ここ最近やや気になる存在として感じる事もあるようだ。その気持ちの本当の姿にはまだ彼女自身何なのか。その答えは出ていない。しかし、今回も彼と戦いを共にしてこの戦いの先に何があるのか。石の謎の先に待ち受けてるものを最後まで見届ける。そんな気持ちである。ふと、シオンを見つめる。
「ん?どうしたでござるか?ユイシィ殿?」
 シオンが不思議そうな顔で自分を見るユイシィを振り返る。
「い、ぃぇ。な、なんでもないです。はい。今回も頑張りましょうね!」
 少しだけ頬が熱くなる様な感覚が今は心地が良い。彼女はシオンの腕を引っ張ってユウコたちを追う。
 その後ろには平穏なる日常の担い手・マクセル(a18151)と夢と戯れし木漏れ日の舞踏姫・リシェル(a10304)だ。そして、その二人は手に荒縄を持っている。そしてその縄の先には一本の足が見える。そして引きずるような音が聞こえる。ずり。ずり。ずり。ずり。それは性欲をもてあます・メリシュランヅ(a16460)である。今朝も何時もと同じ様にもてあましてしまう彼。それを無理やり鎮めて縛り付けて持ってきたのだ。
「穏やかな前方が、すごくうらやましくありませんか?リシェルさん。」
 恨めしい目でメリシュランヅを睨みながらマクセルが言う。その額には怒りのマークが見えるかのようだ。はたして、何があったのだろうか。
「あ、あはは・・・・。僕もウィンさんと一緒に・・・・・・・。」
 ここ最近結婚を果たしたリシェルは自分の夫の顔が浮かんでは消える。戦いに赴く彼女にとって、やや目の前の光景は普段できるのだが、ちょっとだけ今の状況からするとうらやましかったり思うのだ。
 二人は大きなため息をついて、未だに目が覚めないメリシュランヅを引き摺って運んでいくのだ。
「ちょっと、やりすぎた・・・・・・・かな・・・・・。」
 マクセルはそういいながらメリシュランヅに心の中でちょっとだけ申し訳ないというのだった。見れば彼の体は戦う前から傷だらけ。いったい本当に何があったのだろうか。
 森が開けてきた先に、大きな神殿がそびえ立っているのが見える。そこに数人の人影が。しかし、遠目から見てもその様子がおかしいのが解る。
「どうやら戦闘しているようでござるな。しかも相手は一人。一方的な戦いでござるな。」
 シオンが見ながら言う。確かに、見れば四人対一人の戦いなのだが、その戦力の差は恐ろしく開いている。そして、ユウコはその一人のほうの足元に黒いフードがあるのを見た。
「ミュントスの七本槍!?」
 言うが早いか、☆Tao☆の全員がそこへ向って走った。いつの間にか縄を解いたメリシュランヅがチキンスピード奥義を発動して全員の反応速度を上げる。
 一番最初にそこにたどり着いたのはミュシャだった。そして、男の背後からは小さな影が飛び出てくる。大きな剣を構えたフラジピルの姿だった。
「「そこまでだよ!」」
 ミュシャとフラジピルの声が重なる。二人は目を合わせる。ミュシャが嬉しそうに笑顔になる。フラジピルも今すぐに飛びつきたい気分であろう。だが、目の前には女性に剣を突きつける男がいる。その周囲には二人の冒険者が倒れている。二人とも立ち上がれるような傷ではない。ミュシャとフラジピルは男を挟むようにして武器を構える。
 ユウコとフルールは倒れている二人へ駆けつけてヒーリングウエーブ奥義を放つ。しかし、ヒトノソリンのほうが重傷のようだ。フルールはすぐに命の抱擁で回復を試みる。状況はかなり悪い。
 フラジピルの後を追うように二人の冒険者が神殿から出てくる。アーポンとアップレの二人だ。そして、他の者もその場に集結した。再会を喜ぶ時間もなく、全員戦闘体制に入る。
「おお、またゾロゾロと出てきたな〜ん。こうでなきゃ面白くもないな〜ん。」
 男が楽しげに言う。マドゥリージュに突きつけられた剣が引かれ、マドゥリージュはその場に倒れる。首筋から血が吹き出る。アップレがすぐにそれを助けに入る。
 マドゥリージュは苦しげにしながらも伝える。
「き、気をつけて!あいつは尋常じゃない力をっ・・・ごふっ!!」
 吐血しながらも気丈に振舞う姿。それこそがマドゥリージュを支える。アップレが出血部分を癒しの水滴で癒していく。が、なかなか回復しない。
「もう喋らないで!傷に触るよ!!ユウコさん、一旦けが人を背負って私たちは下がりましょう!」
「わかったわ!」
 ユウコはウィンを、フルールはディムトスを、アップレはマドゥリージュを担いで後方へ走る。その間に割って入るようにシオンとユイシィが走る。後衛に回ったものを守るようにリモネアーデとリシェルそしてメイが配置についた。
 マクセルとメリシュランヅそしてカナトは敵の右へ回り込む。周囲を囲むような布陣を張り、敵の逃走を防ぎ、さらにこちらの連携を確実につなげる配置である。
「準備は出来たかな〜ん?まだでもこっちから行くな〜ん!」
 オグリは巨大な剣を構えると大きく振りかぶり、そのまま振り回すようにした。すると周囲の風が悲鳴を上げるように唸り、巨大な竜巻が発生した。その竜巻はその場で更に巨大に膨れ上がる。
「くぅ!ふ、フラジピルおねぇちゃん、やるよー!!」
「任せて!ミュシャちゃん!!」
 二人は竜巻の風の中で剣をオグリと同じ様に振りかぶる。その場に二つの竜巻が発生する。大きな三つの竜巻が拮抗し合い周囲には壮絶な風が吹き荒れている。
「レイジングストームの嵐のようだ!何も見えない!」
 カナトが援護しようにも何も見えない事にそう言った。巨大な竜巻が消えるのを待つしかない。
 そして、一つになった竜巻の中から二つの小さな影が吹き飛んでくる。ミュシャとフラジピルだ。アーポンとシオンが二人の落ちる場所で何とか受け止める。互いに体が麻痺しているのだろうか、動けない。
「い、いいかい?あいつは狂戦死と武道家の力を持っているっ・・・ごふっごふっ。迂闊に近づいちゃだめだよ!」
 空ろな目でもマドゥリージュが告げる。
「そ、そんな!?ありえないわ!」
 アップレは言うが、目の前で起きた事は疑う事はできない。そして、大きな竜巻の中から無傷のオグリが笑いながら出てくる。あれほどの嵐の中でも何事もなかった様に。アップレがそれを見てともかくミュシャとフラジピルに毒消しの風アビリティーを与える。ユウコとフルールはけが人の手当てで手が離せない。ミュシャとフラジピルは苦しげな声を上げながらもなんとか立ち上がる。カナトが二人の間に入り、言った。
「皆で力を合わさないと敵う相手じゃないな。」
 シオンはオグリの前に立ちはだかると言った。
「貴様らの目的は何だ?場合によっては容赦しないぞ!」
 オグリは片手で巨大な剣を肩に担ぐとシオンの横を通り過ぎ、そのまま前に進む。
「匂いだな〜ん。そこのドリアッドから良い匂いがするな〜ん。ん?石版だな〜ん。」
 オグリは目的のものが目の前にあることに嬉しくなったと同時に、グリフィスを倒した相手が見つかった事が嬉しくて仕方がなかった。血の雨を降らしてグリフィスの手向けにしてやろうと考えているのだ。まずは、その相手をユウコに定めたようだ。
 そのオグリを遮る様にユイシィが立つ。
「あの石が何だって言うの!?」
 ユイシィは剣をオグリに突きつけて言う。が、瞬間ユイシィの体が吹き飛ぶ。
「ユイシィ殿!!」
 シオンがすぐに走って助ける。オグリはさらに前へ。ユウコへと近づいていく。ユウコは倒れているウィンの傷をそれでも癒し続けている。仲間を信じているからこその行動だ。
 そのオグリの動きがその場で止まる。その左腕に矢が突き刺さったのだ。マクセルのライトニングアロー奥義が彼の腕を突き刺したのだ。
「いらいらするな〜ん。目の前のメインディッシュは後にするな〜ん。」
「なら、重たいオードブルを食わせてやるよ!」
 メリシュランヅは全員にチキンスピードをかけていく。今回は後方支援に回るように支持されている。ともかく力の限り皆にアビリティーを施していく。
 まずはリシェルがオグリを掴む。そのまま振り上げようとするが動かない。カナトがすぐに黒炎覚醒を施して後方からブラックフレイムを放つ。それと同時にアーポン、シオン、ユイシィの武人三人が三方向から攻撃を仕掛ける。
 が、チキンスピードを受けた誰よりも早く反応したのはオグリだった。彼は異常な速さで巨大な剣を振りかぶる。周囲に巨大な嵐が吹き荒れる。
 周りにいた全員が吹き飛ばされる。
「皆!!」
 ユウコが悲痛な顔で叫ぶ。すぐにフルールがヒーリングウェーブをアップレが毒消しの風を全員に施していく。が、完全にダメージを回復しきれないようだ。
「くっ!!ありえないぞ!」
 シオンが目の前にそびえ立つ壁を見るような目でオグリを睨む。すると、その後ろに何かが動いた気がした。注意深く見なければわからなかったであろうが、しっかりと見た。シオンはマクセルに近づいて小声でそこを狙って弓を放つように。あくまでもオグリを狙うように。マクセルは頷く。メリシュランヅがそれに続いてもう一度全員にチキンスピードを施す。
 後衛のユウコ、アップレ、カナトがニードルスピアを放つ。フルールがそれに合わせるようにエンブレムシャワーアビリティーを放った。まるで逃げ道がないような攻撃の雨に乗せるようにマクセルがライトニングアローを打った。オグリはそのどれもを受けるつもりなのか全く動かない。それが幸いしたのか、一本の矢が間違いなく後方の何かへ突き刺さったのだ。それと共にその正体が明らかになる。ハイドインシャドーで姿を消してオグリの力を更に上げていたのだろう。それは褐色の肌を持つ、エルフの女であった。
「ちっ!ばれたな〜ん。」
 オグリが言う。矢を受けた女は苦しそうにその場に蹲る。
「どうやら仕掛けがわかりましたね。もう一人いたとは。流石です。シオンさん。」
 ユイシィは女を見ながらシオンの手を借りて起き上がる。しかし、敵が二人であることは一人よりも恐ろしい事かもしれない。あれほどの力を持つミュントスの冒険者が二人も。それは厄介ごとが増えただけとも言える。さらには姿からみれば女は忍びである事がわかる。オグリは女を守るように立つと、降り注ぐ全てのニードルスピアをその体で受け止める。だが、傷はあまり付かない。その強靭な肉体がアビリティーさえも無効化してるかのようだ。
「エト、退くんだな〜ん。そしてクラリィス様に伝えるな~ん。」
 言うとエトと呼ばれた女は頷いてその場から消えた。オグリはそれを見届けるとまた剣を持った。
「たとえ、後ろ盾がなくとも、俺は勝つな〜ん。」
 そして、再び戦いの火蓋は切って落とされた。
 シオン、アーポン、ユイシィがまず敵へ向って駆けた。シオンとアーポンは互いに己の武器へ武具の魂を使用する。ユイシィの武器にはアップレがデバインチャージを施して強化をする。
 先に仕掛けたのはユイシィだ。居合い切り奥義で走り抜ける。その左右からシオンとアーポンが電刃居合い切り奥義をオグリに叩き込む。
「倒させてもらうぞ!この手で!」
 シオンの声と共にオグリの全身へ強烈な電撃が走り抜ける。流石のオグリもその攻撃は効いたらしくその場から動く事が出来ないようだ。その間にメリシュランヅが再びチキンスピードをかけていく。全員の反応速度が向上していく。
「行くぞ!メリシュ!」
「おうさ!カナト!」
 カナトとメリシュランヅが声をかけあい、オグリに向って駆ける。それを援護するようにリモネアーデとマクセルが後方からソニックウエーブとライトニングアローを放つ。そのどちらも動けないオグリには避ける事も出来ずになすがままになっている。カナトとメリシュランヅが敵へ向うその間にリシェルが飛び込んでくる。
「酷い事するヒトノソリンなんてヒトノンリンにしてあげる!」
 なんだか良くわからないが、気迫は篭っている。リシェルは斬鉄蹴奥義でオグリを切り裂くように蹴りつける。オグリはたまらずその場に崩れ落ちる。リシェルがその場から飛びのいたのを確認してからメリシュランヅが改めて走る。
 その後ろからカナトがメリシュランヅ目掛けてブラックフレイムを放つ。敵にではなく、間違いなくそれはメリシュランヅの背中に向って飛んでいく。ブラックフレイムは間違う事無くメリシュランヅを包む。紅蓮の炎に身を包んだメリシュランヅが熱いよ。とか言いながらオグリにミラージュアタック奥義を叩き込む。燃えていることに意味があるかどうかわからないが、ブラックフレイムの威力も一応上乗せされたようだ。どちらかと言うと、メリシュランヅの方がいたそうでもある。
 オグリにはもう動く力は残っていなかった。自分の力はマドゥリージュたちを倒す時に使い、そしてその後に来たこの冒険者たちの猛攻にすでにその命はつきかけている。尋常ではない強さを持つミュントスの冒険者も、それだけ多い冒険者たちの猛攻に曝されればひとたまりもないのだろう。が、しかし。地獄の門番を名乗り、ミュントス一力があるオグリは誇りにかけてもこのまま終るわけには行かなかった。
 オグリは最後の力を使って巨大な剣を振りかぶる。今まで以上に巨大なレイジングストームがメリシュランヅとカナトを包み込む。
「「ぐあああ!!」」
 間近にいた二人は避ける事も敵わず吹き飛ぶ。
「メリシュおぢちゃん!カナトお兄ちゃん!!」
「ミュシャちゃん、もう一度、行くよ!」
 ミュシャとフラジピルがオグリに向って駆ける。その武器には暖かな光が包み込む。ユウコとアップレが二人の武器を強化していく。
「「飛んでっちゃえぇえええぇ!!」」
 二人の叫びと共に、二つのレイジングストームは仲良く踊るようにオグリのレイジングストームをかき消すかのように動く。さらにその巨大な竜巻は真っ赤に染まる。カナトが吹き飛びながらもブラックフレイムを竜巻の中心へ放ったようだ。
 紅蓮の竜巻はオグリの体を切り刻む。
「うがああああああぁああぁな〜ん。」
 最後の最後まで語尾を残しながら、オグリは散った。大地にその巨大な剣を突き刺し、仁王立ちしながら絶命している。地獄の門番に相応しい雄々しい最後だった。
 メイはオグリの近くで歌を歌った。敵であったものも、命が尽きれば。かつての大戦で散った冒険者たちへ捧げているのだろうか。それは天高く木霊するように。透き通る水のように。それにつられてユイシィも歌いだす。知らない歌でもその気持ちがお互いに空気のように混ざり合う。そらに輝く太陽は、そらの雨雲を消し去っていく。熱い日々はまだ続いて行くようだ。
 その姿をいつの間にかいなくなっていたキンカラは見ていた。少し離れた場所でずっと。彼の目的が何なのかは全くもって不明だが、その顔には厳しい表情が消えているように見える。そして、キンカラの姿はその場からいなくなっていた。
「まだ、終ったわけじゃないよ。皆。」
 ユウコが言う。全員疲れきっているが、やり残した事が一つだけある。そう。神殿内部の石。それを回収しなくてはならない。傷ついた体をかばうようにしながらそれぞれ神殿内部へ進んで行く。

 パワーポイントまでの道のりは何事もなく進む事が出来た。フラジピルたちが切り開いてくれたおかげである。今もまだ優しい光が灯っているパワーポイント内部でそれぞれ疲れを癒している。
 早速と言わんばかりにミュシャはフラジピルの隣でカバンを広げてお菓子を取り出している。フラジピルなどはしばらく食べてない好物ばかりを目の前に、口元からよだれが出てくるような気持ちである。
 それを見てユウコが手を叩いて進言した。
「じゃ、この辺でお弁当にしましょー♪」
 ユウコは自分のカバンを開けると中から重箱を取り出す。さらにはシートをパワーポイントへ広げる。お弁当箱には人数分以上の食べ物たちがおいしそうに並んでいる。流石団長とでも言おうか。良い仕事をしている。
「メリシュは、こっちね?」
 言うと、カバンの中からピンクのお弁当箱が取り出される。
「おお、団長!俺の為に特別に作ってくれたのか!」
 嬉しそうに箱を開けると・・・・・・・・。
全員「( ̄□ ̄;)!!」
 中にはぎっしりと詰まったウパ。それもウパ丼などの比率ではなく、ドンウパとでも言おうか。もはや拷問ともいえる代物であった。メリシュランヅは、涙ながらにそれを食べまくった。後でひっそりと卵焼きだけをそっとマクセルが差し出す。それはその時のメリシュランヅにとって、幸福な味だった。
 ともかく、その食事とパワーポイントのおかげで、先ほどまでの闘いの傷は癒えたようだ。気を失っていた、マドゥリージュたちも何とか意識を取り戻し、食事を一緒にしている。
「なんだかね。借りが出来ちまったみたいだねぇ・・・・。」
 マドゥリージュは申し訳なさそうに言う。
「あんたらの仲間にソルレオンがいたとダストスから聞いたけど?」
 カナトがマドゥリージュに質問する。マドゥリージュもその時になって初めてキンカラがいなくなっている事に気が付いた。あの闘いの最中何処かへ逃げて行ったのだろうか。偉そうな態度だったのにさっさと退散してしまったソルレオンにやや嫌な予感がしてきた。
「あのソルレオン、何を考えているかわからなかったな〜ん。」
 ディムトスがそれに答える。その隣ではリシェルがウィンを先ほどから穴が開くほど見つめていた。一方ウィンはその状態に脅えているかのようだ。
「・・・・・・・・・似てる・・・・・・・。」
 髪の毛の色。服装。狐の尻尾。そのどれもがリシェルの夫に瓜二つである。
「ふむ。世界中には似た者が三人はいると言われている。」
 メリシュランヅが何処とも知れない方向に説明する。リシェルはそれでもウィンをじっと観察していた。
「とにかく、私たちも手伝うよ。元々目的は同じみたいだしねぇ。」
 マドゥリージュはそう進言した。真意のほどはまだまだ解らないが、それでも仲間が出来る事に反対する意見もなかった。ユウコとマドゥリージュは握手を交わした。
 休憩を終え、それぞれ神殿深部へと進んでいく。その奥のほうから腐敗したような匂いが充満している部屋があった。ダストスがリザーフランドの冒険者から貰ったとする地図にはそこに何かがあると記されている。
 フラジピルはミュシャと共に先頭でその部屋を覗いてみた。
 通路とは違い、その部屋はかなり巨大な構造になっている。天井までの距離は10メートルほどはあるだろうか。部屋の広さもかなり巨大な造りになっている。その部屋には赤黒い塊がいくつも蠢いているのが見て取れる。ケイオスオーガンの群れとでも言おうか。その光景は竜脈坑道でみたグドンの大群にも似ている。
 その部屋の中央に確かに何かが光っている。淡い黄色の光を放っている。ケイオスオーガンの全てがそれに向かって這いずってきているようだ。ケイオスオーガンは部屋の奥の一つの穴から出てくるようだ。穴の出口はそれほど大きくはないのだが、ケイオスオーガンが通れるくらいはあるだろうか。そこからさらにそいつらは出てこようとしている。
「うわぁ、う、うじゃうじゃだね・・・・・・。」
 フラジピルが自分を抱え込むようにして震える。その光景はまさしく地獄絵図のようだ。巨大なケイオスオーガンが部屋中にあふれんばかりに動いている。
「あの出口を塞げばあれ以上は増えそうにねぇな。」
 アーポンが出口の周囲を確認しながらいかにして破壊するかを考えている。
「中央にある石を手に入れて速攻穴を塞いで出ましょうか。」
 ユウコがうんと頷きながらそう言った。
「フラジピルたちはケイオスオーガンを牽制してくれるかい?俺たちはその間に中央に切り込んで石を手に入れる。」
 カナトがあらかじめ考えていたメンバーを指名していく。
「ええー。フラジピルおねぇちゃん危なくない?お菓子でも食べて待ってたほうが・・・・。」
「大丈夫だよ♪僕だって冒険者になったんだから。見てて!」
 フラジピルは心配そうに見つめるミュシャの両手を自分の両手で包み込んで笑顔で答える。ミュシャもそれで安心したのか、配置に戻った。
「ち、チキンスピード職人!!」
 喚きながらメリシュランヅが全員にチキンスピードを展開する。それと同時にフラジピルが部屋内部に特攻する。それを追う様にユイシィ、アーポンそしてマドゥリージュたちが先行して突入する。後方からカナトとフルールとアップレがサポートする陣形だ。
 フラジピルがケイオスオーガンの目の前に立つと、大きな剣を振りかぶる。それと同時に空気の流れのなかった部屋に轟音と巨大な竜巻が発生する。フラジピルの進入に動こうとしたケイオスオーガンはその場で切り刻まれる。遅れて到着したユイシィとアーポンが流水撃奥義で周囲の敵を纏めて切る。それでも動こうとする肉塊にカナトのニードルスピアが止めをさす。周囲に醜悪な肉片が飛び散り、前線にいるフラジピルたちの体にとりつく。
 それは腐敗していて触れただけでも毒が回ってくるような代物だ。が、それを遮る暖かい風が周囲に漂う。アップレが毒消しの風奥義を発動させたのだ。
 石までの間にいたケイオスオーガンたちはなんとか排除できたようだ。
 それを確認したシオンが号令をかける。
「チャンスを逃さない!」
 駆けるシオンを残った者も追う。電刃衝奥義で周囲の敵を蹴散らし、石への道を切り開く。メリシュランヅとリモネアーデやミュシャは更にその周囲の残った敵を排除している。
 そしてついに石へユウコとマクセルが到着した。
 瞬間、石版が七色に光りだす。それに応えるかのように黄色い石が台座から浮き上がる。眩いまでの光は黄色から黄金へと変化して、部屋全体を覆う。
 その光はケイオスオーガンの肉体を蒸発させていく。
「こ、これがこの石の力?ケイオスオーガンは、それを恐れていた?」
 光は徐々に消えていき、黄色に光る真円の石は石版に自分から納まって行く。その場所も自ら選ぶかのように。そして、石が収まると石版中央に丸い光が浮き出る。そしてその光の中に島が映し出された。
「これは、ランドアース・・・・・・。」
 マクセルが覗き込みながら言った。そう、それはランドアースの地図のようだ。
 その地図数箇所に4つの紅い光が灯る。まるで何かを示すかのようだ。
「残る石のありかを示している?」
 石版はそれだけ映し出すと光を失った。
「あ、き、消えちゃう!!」
 言うよりも早くそれは消えてしまった。まだ石版の力は明らかではない。しかし、石を示す地図かと思われるあの映像。それは石版自体が石を求めているかのように。まるで、それは初めから用意されたモノであるかのように。真相はまだ明らかではないが、それは確実に近づいている。着実にその実態を明らかにする道へと。
 石の光が消えたことで穴の奥からいくつもの這いずるような音が聞こえていうる。
「来るぜ!さっさと穴を塞いじまおう!」
 アーポンは皆に向って言った。
 皆はそれぞれその出口周辺を崩れやすくするように、神殿もろとも生き埋めにならないくらいに破壊していく。
「後は、私に任せてください。」
 マクセルが弓矢を取り出して一番もろくなった場所へナパームアローを打ち込んだ。
 猛烈な爆発と共に、崩れていく天井。
「さあ、でよー。もうこの部屋も長くないみたい。」
 フラジピルがミュシャとユウコの手を引いて神殿から出る道を走る。その後を全員が追った。
 巨大な部屋の内部にケイオスオーガンたちの声が聞こえる。ただ死肉を求めて彷徨うその醜き魂に、安らかなる眠りを与えたまえ。
 神殿から出たときにはすでに夕暮れ時だった。最果て山脈に沈む夕日が冒険者たちを暖かく包み込んでいた。

【そして、新たなる】
「以上、報告です。」
 エトワールから伝えられた事はクラリィスにとってもはや信じられない出来事であった。グリフィスに続いてオグリまでもが倒されてしまった。七本槍もエトワールを残して散り散りになってしまった。
「仕方ないな。ヨシュアたちがいない以上、私が出よう。」
 クラリィスは言った。その前方には幾千人の戦士が集っていた。それぞれに武器を持っている。魑魅魍魎たちの軍勢はかつての大戦時と同じ数いるだろうか。しかし、その殆どはアンデットで構成されている。クラリィスが直々に作り出したアンデットの軍隊である。
 そう。クラリィスはすでにミュントスでもその地位を失墜しそうになっていた。自らが集めた精鋭がたかが冒険者数人に打ち滅ぼされ、さらに自らの欲するものを手に入れられない事は、実力が無いのも同然なのだ。それはクラリィスの気に大いに触れ、その決断を下したのだ。それは、地上への全面戦争を意味していた。目指すは、たった一つ。憎き冒険者たちの旅団。☆Tao☆を目指して進軍。それが彼女の出した答えだった。
「エトワール、お前は第一陣を引き連れて先に行け。私は自らリディアへ行く。お前は邪魔なアンサラーを押さえて置け。」
「リディア・・・・・。光の石を手に入れるのですね?解りました。どうか無事で。」
 エトワールは言うと、その場から消えた。アンサラーの護衛士団内部からの破壊活動をするためである。
 クラリィスは黒いフードを被ると席を立った。それは新たなる大きな大戦の第一歩。しかし、クラリィスにとっては波乱の道を行くことになる。その時には彼女にそれを知る事はできない。
 一方、アンサラーにも大きな動きが出ていた。護衛士団長である白髏の霊査士・ロウ(a90004)が地獄周辺で動きがある事を聞きつけ至急円卓へ通達に冒険者を派遣したのだ。その一方はすぐにランドアース全土に広がり、冒険者たちはその戦いに備えるために準備を始めるのだった。
 ☆Tao☆旅団にも大きな動きがあった。それは旅団へ一人のエンジェルが訪問してきた事から始まる。リディアからの来訪者だと名乗った女性。その女性を見てダストスは驚愕の表情を見せる。
「ね、姉さん?ぷ、プルーフ姉さん!」
 確かにその女性は殺されてしまったダストスの姉、プルーフに瓜二つであった。しかし、その背中には見慣れないツバサが生えている。それがプルーフではない証拠であろうが・・・・・。
 彼女はプルーフと同じ声。その透き通るような声で告げた。それは新たなる闘いを予兆させるもの。
「リディアが大変なのです!ピルグリムやギアチャイルドたちが!」
 それと同時、アルビナークにいるヴェイドにも不穏な一報が寄せられた。アンサラーへ地獄の冒険者たちが進軍している事。そしてもう一つの石のありかを意味するような事件。遠く離れたワイルドファイアの巨大な森内部で変異動物たちが暴れていると言う。どちらも見逃す事が出来ないことであった。
 ヴェイドの目の前には集まったアルビナークの戦士たちが。ヴェイドを中心として冒険者として志願して力を手にしたなりたてではあるが、実力のある戦士たちである。
「どうやら、彼らはこちらを目指してやってくるでしょう。そして、その目的は。」
 ヴェイドは空を見上げた。ランドアース全体を包む不穏な空気に引き寄せられたのだろうか。先ほどまで燦燦と輝いていた太陽が顔を隠し、そらには厚い雲が漂う。ぽつりと額に雨が当たる。それを引き金にして大粒の雨が大地を激しく打ち鳴らした。嵐が近い。
「準備を急がねばなりませんね。」
 ヴェイドは早速アルビナークにいる全員を集めて協議に入るのだった。一番激戦区になるその場所を守るためには。ここにたどり着く前に、多くの冒険者たちが戦いを繰り広げる。たった一つの存在を求めて。後に、第二次ミュントス大戦と言われる大きな大戦が、目の前に迫っていた。
 旅団へ帰ったユウコたちもその一報を耳にした。それを元に、フラジピルらとマドゥリージュは二手に分かれる事を提案する。
「私たちはワイルドファイアへ行くよ。その方が効率が良いだろう?」
 マドゥリージュがそういった事から始まる。フラジピルらもそれに同行するらしい。☆Tao☆旅団も全員が集められそれぞれの道を決めなければならなかった。
「これからが、本当の闘いみたいだね。」
 ユウコの言葉に全員が真剣な顔をして頷いた。外はさらに大きな嵐になっている。吹き付ける風が全てを飛ばしていくように。
 暗雲の中、動くモノがいる。それは三つ。どれも黒いフードを身に纏っている。
「クラリィスが動いたようだ。乱戦に乗じてやつらを討てるだろう。」
 影の一つが言った。
「ふん。四天王と言われてはいるが、集まらぬものだねぇ。」
 のんきな声も混じる。
 中央の一人が背中のツバサをはためかせる。三つの影はそのまま道を南下していく。向うは☆Tao☆旅団。全てが集約していく。それは大きな流れとなり、一つの終わりへの道へ。

第三話:徘徊するモノ・完。


マスター:メリシュランヅ背後
参加者:10人+NPC8人(フラジピル・メリシュランヅ・アーポン・アップレ・ダストス)

冒険結果:成功!!
重傷者:なし
死亡者:なし

全体入手アイテム:黄色に光る真円の石
石の数:3個(紅・翠・黄)かすかな力を感じるようだ。だが、僅かすぎて悟る事が出来ない。その力は禍々しくもあり、神々しくもある。
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